ゴースト×ゴースト小説、奇跡のドール Ⅵ

翌日リリアは日の出と同時に目覚めて、結局ずっと外に居た私に、窓から「おはよう」と声を掛けてきた。
変に気にしていたらどうしようと思っていたから、いつもと変わらない笑顔には少し安心してしまった。

それからは昨夜と同じように作業部屋に二人並んで、ベリーにあげる人形を作った。
やはり昨日のリリアは相当緊張で目が回っていたようで、今日は針で指を刺すなんてことも無いし、話すときは目を見てきた。
逆に今までより何倍も明るくなっていて、これは昨日の緊張も無駄じゃなかったなぁと嬉しくなる。

そう上機嫌にリリアの手元を眺めていると、昼に差し掛かる前くらいにはもう完成したので、相変わらず彼女の作業ペースはとんでもなく早い。

「ベリー喜ぶかな…?」
リリアが少し心配そうに聞いてきたが、私は笑って、
「リリアも私もお互い頑張ったんだから大喜びに決まってるよ!」
と、自信満々に言う。リリアは初め驚いて目を見開いたが、後ににっこり「そうだね」と笑った。

暫く笑いあっていると、リリアはその人形を差し出して「はい」と続ける。
「…あとはエグゼリアルだね。おめでとうって、言ってきて。」
リリアは、きっとそう言うだろうなと思っていたから、驚きはしなかったけど、私は少し寂しかった。
折角リリアが作ったのに、私だけであげるなんて。
勿論私もすごく頑張ったけど、でも、私のあの下手な絵を形にしてくれたのはリリアだ。
私はどうしても、リリアが行くべきだと、そう思った。

「…ねえリリア、その事だけど」
「リリアは行かないよ」
私の言葉を遮るようにして、リリアは少し、強くそう言った。
突き放されたようで驚いたけど、リリアは怯えたような顔で下を向いていたから、リリアの外への抵抗心はそれだけ強いのだと感じた。

「…リリア。一度、一度だけ、私と一緒に街へ行かない?」
あまり無理矢理連れて行くのは嫌だから、リリアが心の底から外に出たいと思うように、言葉を選ばなきゃ。

「街にはね、ベリーみたいなとっても優しい人がたくさん居て、綺麗な景色がたくさんあって…リリアが見たことのないものがたくさんあるんだよ。」
「でも怖いものもたくさんあるよ」
作った人形を不安そうに握り締める手が、小刻みに震えているのを見ると、私の意見を押し付けるだけではダメなんだと思った。
同じ目線で見るんだ。少しでも、リリアと近い景色を。

「リリアに怖い思いをさせるものは私が追っ払ってあげるから!」
「エグゼリアルが追っ払えなかったらどうするの?」
「そんなことはありえない。私は何度も街へ行ってここまで帰って来てる。それに私は神様だから絶対負けない!」

腰に手を当てて胸を張って見せると、リリアは力を入れていた手を緩めて、葛藤しているようだった。
頑張れ、声には出さないけど、リリアがここから一歩踏み出せるように、心の中で声を掛ける。

少しすると、リリアは決心したように、けれど不安そうに頷いて、いつものように目を合わせた。
「…リリア頑張る。だけどエグゼリアル、ずっとリリアと手繋いでね?」
「いいよ、喜んで。」
私がそう言って笑って見せると、リリアもやっと笑ってくれた。
うん、やっぱり笑顔が良く似合う。

じゃあ行こう、と言い掛けた所で、リリアは「あ」と思い出したように手を叩いた。
なんだか嬉しそうだったので何を思いついたのかと不思議に思ったが、リリアは作業部屋の扉の方まで走って行って廊下に抜ける前に、
「エグゼリアルは、玄関で待ってて!」
と言い残した。廊下を走る足音を聞きながら私は首を傾げたが、まあ何をしに行ったかは後に分かるだろうと思ったのでリリアの指示通り玄関で待つことにした。


今日もいい天気だなーとか考えながら外を覗いていると、廊下の奥の方からリリアの「じゃーん!」という声が聞こえる。
なんだろうと思って振り返ると、そこにはドレスから動きやすい服に着替えたリリアが居た。
「わあ!よく似合ってるね。その服、なんで…」
「人形ばっかりで疲れたとき、作ったの。エグゼリアルを驚かせようと思ってたけど、忘れてたから今着たんだよ。それにデートはおしゃれするんでしょ?」
デートって…。そう改めて言われると照れくさいけど、間違った表現じゃないしなぁ…。

そんなことより、リリアは何でも作ってしまう。それに作った人形を見ても気付き難いけど、センスがあることが服だとハッキリ分かる。
色々楽しんで作れたら便利だろうなぁ。また私も暇が出来たら練習してみようか。すぐ飽きてしまいそうだけど。

「じゃあ、行こうか。」
私が左手を差し出すと、リリアはさっきまでの不安げな表情は消して「うん」と笑って手を取ってくれた。


歩き出してしまえばリリアも楽しくなって来るようで、あの花がどうとか、この虫がどうとか、とにかくずっと喋っていた。
一人で歩いていた道が急に何倍にも賑やかになって、なにもかも全然違った場所に見えることに驚く。
この道を歩いている時の退屈で長く感じる時間は、リリアが居るだけで本当にあっという間な時に変わってしまった。


私が過去に大金を手に入れた街の入り口に足を踏み入れると、リリアは「わあ」と目を輝かせた。
「絵本はやっぱり本当だったんだ、街はキラキラしてるんだね!」
なんて、嬉しそうにはしゃぐ。それでも握った手は離さないので警戒はしているみたいだけど。
「ねえ、ベリーはどこに居るの?」
すっかり元気になったリリアは弾んだ声で私にそう尋ねた。
長い間家の中に居るリリアの姿しか見ていなかったから、太陽の光を受ける彼女はなんだか新鮮に感じる。
「ベリーは向こうのお店に居るよ。もう少し。」
私がそう声を掛けるとリリアはスキップでもするかのように前へと進んだ。

その間は、私の顔が知れ渡っていることもあって街中で多くの人と会話を交わした。
はじめは声を掛けられるだけで驚いていたリリアも、私がなんの警戒もなく話している姿が見てか、会話に入ってくるようになった。
そして、街の人間たちも彼女の純粋な瞳に吸い込まれるように親密になっていく。
会話に夢中になって立ち止まることも多くあったが、その度リリアは「ベリーに会いに行かなきゃ」と焦った様子で別れを告げていた。

すっかり街のアイドルになったリリアを少し眩しく思いながら、ようやくベリーの店に辿り着く。
緊張した面持ちで扉の前に立つリリアに「いつも通りね」と笑って、扉に手を掛けた。
一体どんな反応をするだろう、少し期待しながら見慣れた店内を覗くとリリアもそれを真似する。

「いらっしゃいま……って、あーっ!!」
店内にいた相も変わらず元気な少女な大きな声を上げて驚いた。
これは期待通りのリアクションだ、合格だな。

私はリリアと繋いだ手を小さく掲げて笑ってやる。そうするとベリーはまたも「おー!」と感嘆の声を上げて近付いて来た。
「じゃーん、彼女です」
そう告げると、リリアもニコニコと笑って「彼女でーす」と反復する。その様子を輝いた目で見ていたベリーが拍手をして私に詰め寄ってきた。
「やっぱり居たのね!それにすっごく美人さんじゃない、お似合い〜!」
そう言うので、私が自慢気に笑ってやると、隣でリリアが少し照れるようにした。
ベリーはそれを見て、今度はリリアと目を合わせる。
「はじめまして、私ベリー!」
「リリアだよ、はじめましてベリー」
笑いあう二人の顔を見て、少し安心した。ここまで来てもリリアが怯えていたらどうしようかと思った…。
そんな安堵を覚えて、暫く二人を眺めていると、リリアは待ち切れなさそうな様子であのね、と話題を切り替えた。
不思議そうな顔をするベリーに笑いかけると、ようやく私と繋いでいた手を離して、リリアは手を繋いでいなかった方の腕に下げていた籠を両手で持って胸の前まで持ってきた。
「結婚おめでとう、それと、いつも素敵な生地をありがとう。これはそのお祝いとお礼だよ。」
受け取って、とベリーの前に手作りの人形を突き出すリリアはとても嬉しそうにしていた。
そしてベリーも、目を見開きながら驚いて、その数秒後に「わあ」と口元を抑えて尚、声を漏らした。
「とっても素敵…!リリアさん、本当に器用なのね!」
そんなベリーの言葉を聞くと、リリアは不思議そうな表情で固まる。
今まで誰かに人形をあげる所か、人と会話することさえ経験の薄かったリリアが、他人から直接感想を聞いた訳で。想像以上の嬉しさに言葉を失った、というところだろうか。

心配そうにするベリーがなんだか可哀想だったので、私はリリアに声を掛ける。
「素敵って言ってもらえて嬉しかったんだよね」
そう言ってやると、徐々に頬を赤らめて「うん」と笑顔を取り戻した。
それを見てベリーも安心したようで、釣られて笑っている。

「何かお礼がしたいわ!リリアさん、何が好き?」
ベリーに意外なことを問われたので、リリアは少し驚きながらも「うーん」と唸りはじめる。
お礼も兼ねて人形を渡しに来たのに、お礼を返されてしまうなんて可笑しな話だなぁと思ったが、まあ人間の行為に下手に突っ込むのもよくないなと思ったので敢えて流した。
「そうだ!リリアさん、まだ絵本好き…?」
その言葉には、正直私が驚いた。そんな昔の話をまだ覚えていたなんて。始めてこの店に来たときにした話だと思うんだけど…。
なんて、彼女の記憶力に感心しながら二人の会話を聞いた。
「リリア、まだ絵本好きだよ」
最近読む絵本がなくなってしまったとかで、本当に人形ばかり作っていたもんな。
絵本も買ってあげればよかったかと今更後悔してしまう。
「よかったら絵本、少し貰って行ってよ」
ベリーがそう言うと、リリアは「いいの?」と目を輝かせた。
でも私はどうにも気に掛かってしまった。
「え、でもこれから子供が生まれるんだったらその子にとっておいて上げたほうが良いんじゃないの?」
絵本は本来小さな子供が読むものだし、ベリーにしてもとっておいた方が新たに買わなくて済むし楽なはずなのに。
しかしその提案には人差し指を立てて反論されてしまった。
「いいの!私の旦那さんは絵本作家だから」
おお、なんて偶然。これも私が気付かぬうちに起こした奇跡なのだろうか。
私がそんな風にぼんやりしている中、リリアは「絵本作家って?」と聞いて来た。
「絵本を描く人のことです」
と私が少し博識ぶって答えると、リリアはワンテンポ遅れて「ええ!?」と体が跳ねるほどに驚く。
絵本好きなリリアにとってはとんでもなく凄いことなのかも知れないな。

「さあ!分かったらこっち来て」
ベリーはリリアの手を引いて店の奥の扉へ手を掛けた。
元気な女の子二人の後ろ姿を眺めていると、なんだか自分がとんでもなくダメな存在に思える。

あーあ、しっかりしなくちゃ。

私は走る二人の後を、ゆっくり歩いて追った。

ゴースト×ゴースト短編小説、傷の正体

何がどうなってだったか忘れたが、僕はどうやら怒られているようだった。
少しだけ淡さの異なる青髪を持った二人の少年達が、僕を見ている。
兄弟かと思ったが目付きの違いもこの性格の違いも相俟って恐らくそうでもない。
ソウルと名乗った一人は、初め口を開いた時から五月蝿く怒鳴り続けているし、もう片方は、口を開こうともしなかったけど。

「...どういうこと?」
「世界を創るあんたらが人間をいたぶって楽しいワケ?」
「...つまり?」
「だから!あんたが創造神なら、邪神の行動もあんたの監督責任だろ!」
やたら食い気味に主張を続けるソウルだが、どうやら足に深い傷を負っているようで、立ち上がることは無かった。
無造作に巻かれた血の滲んだ白い包帯が、酷く痛々しい。
僕が此処に来たのは特に二人に会いに来たとかではなかったのだけど、創造神と名乗った矢先、ソウルはこの状態だ。
もう数十分は罵声を浴びせられていると思うが、半分は耳を抜けてしまっている。

「...確かにやり過ぎだとは思うけど...」
思うけど、彼は現在どうも精神状態が不安定で、一言加減しろと言っても事は収まらない状況にある。
全くの関わりのなかった彼の言うことより、レディアの言うことを優先させるのが当然だろう。
それに加えてこの傷がレディアの仕業と言うなら、彼等がレディアにとって敵であるに違いない。

それに見る限りではソウルは子供だった。外見も、それにしっかりと見合った性格と意見も。
それを思うと、言っていることが確かなのかも定かでない。

「...言いたいことは分かった、どうにかしよう」
こういうのは簡単な言葉でまず事を収めることが重要だと思う。後々詳しく調べれば何らかの取り返しはつくのだから。

...それよりも僕は、気になることがある。

「...ところで、君はフロウか?」
そう問えば、大きく肩が跳ねるのが見えた。
最近はレディアと、その周りの状況を理解するのに時間を費やしているから、このフロウとか言う人間のことを知らなければ何かと事が進まなかった。
反応からして名前と本人が一致したことは分かったので、それだけで十分に思えた。

ソウルがレディアへの不満をこうも詳しく長々と語れるのは、本当にレディアと接触しているからだろうと思う。
だから、レディアがこの二人を傷付けたと言うのは、恐らく間違いない。
フロウらしいこの人間の腕にも、裂けた白い服に紅い血が滲んでいる。

「......そうか」
僕が返事もない彼に、一方的に告げると、また不安げに顔を歪めた。
そんな彼との間に入るように、ソウルはまた声を上げたのだった。
「とにかく!お前があいつの味方なら俺達はお前も許さねえし、絶対にお前達を倒す!!」
また冗談なのかよく分からない台詞を吐きながら突っかかってくるソウルに、僕はただ返事をした。
確かに、ここまでの傷を負ったなら、気持ちを理解出来ないわけでもないけれど...。
でも彼への言葉は、まだ良く考えなければ、またこの二人にも、彼にも、僕にも被害が及ぶことだろう。
...思ったより遥かにこの問題は、複雑で難解なようだ。

僕はまだまだ、小さな反逆者の怒鳴り声を聞き続けた。

ゴースト×ゴースト短編小説、光と影

影は、ただ空を見て呆然とした。
あまりに多くのことが一気に起こった為に、それについていけていない様だった。
体は動けば所々軋んで、動けたものではない。だから此処でただ誰かの助けを待つしかなかった。
嘗て、助けられることが嫌いであった影は、それにもまた、強い不快感を抱いた。

無駄に空は晴れているし、それにもまた苛苛と感情が募る。
だから溜息をついてまた同じように空を仰いだ。

すると、誰かが上から、影を見下げた。
それは太陽との逆光で、黒く闇に染まっていた。
嘗て光だった影が、嘗て影だった何かを見下げている。
「...なんか用かよ」
影がそう問うと、光は自信をなくすようにしゃがみ込んで目を伏せた。
特に言葉を発する訳でもなく、そこに居座った。
影が動けないのを良いことに、光はそこに、何も言わずに居座った。
「...なんだ、喋れねえの...、赤ちゃんに逆戻りか?」
口元は腕に隠れて見えず、虚ろな瞳だけが見えた。
濁った蒼の瞳が、何処か此処ではない遠くを見つめていた。
「見てたってわけ?」
そう尋ねると、光は小さく身をすくめた。
影はもう他人の感情を見ることは出来ないが、光が光を失いつつあることは理解出来た。
「別にいいじゃん、あんたがめった刺しにされた訳じゃねえんだし」
今回は影が傷付いただけだ。光が傷付くことは、何も無いはずだった訳で。
「...何とか言えよ」
光はなにかと混乱して、思い出すべきことと忘れるべきことを理解出来ずにいる。
影に簡単に出来ることが、光にはただ難しかった。

「...あんたらの愛ってなんだったんだ?」
「多分今なら理解出来るんだ」
「けど、あんたらの愛はどっからどう見ても醜いよ」
「俺が嘗て愛に嫉妬してたとしたら、俺はなんて勿体無いことをしたんだろうな」

光はどんな話も、黙って聞いた。
何も言えなかったのだ。自分の意見は自分だけのものであるから。
その分、影は話し続けた。今の感情が気持ち悪いだとか、人間の生活が分からないだとか、空が晴れすぎて気分が悪いとか。
動けないから、ただ自由に話し続けた。
グダグダと、どうでもいいことを話し続けた。
光は光を思い出すこともないまま、黙ってその話を聞き続けた。

「あんたどうしちゃったわけ?それは逃げてんのか向き合ってんのかどっち?」
何を聞いてもだんまりなのは知っていたが、影はもどかしくなってそう言った。
「...別に喋れねえのはいいけどさ、あんたの話が聞きたい訳じゃねえし」
「折角人間になったから言うけど、そのままうじうじしてたってなんも変わんないよ」
「俺はそう言うの、すげえムカつく」
影はその言葉で、光が逃げ出すと思っていた。
しかし光は逃げなかった。聞いてないのか、受け止めているのかは知らないが。

「...なんでもいいけど、俺に縋るんだったら助けてやってもいいよ。つーか、二人で復讐の手段考えるんだったら付き合ってもいいって話」
ただ、光は復讐を望んでいるのか、自分でも分かっていなかった。
影はもう、他人の感情を読むことは出来ない。だから、光が真に望むことがなにか検討もつかなくて、それにもどうしようもないもどかしさを覚えた。
「...それに復讐だけじゃなくてもいいよ、俺達がさ、...なんていうか...納得いく結果を探すんだ」
光が手を握りしめているのが分かった。話したくないのか声が出ないのかも、また分からなかったが、光が話を聞いていることは伺えた。
「さあ、どうする?」

暫くの、長い沈黙だったと思う。
人は運命を背負った選択をする時、本当に、無駄に長く考えると、影は知っていた。

その内に光は頷いた。

強くではなかった、とても弱く、不安に満ちた表情で。
もう他に縋るものがないから、仕方なく、覚悟を決めて頷いた。

「はい、じゃあ決まりね」
それに応える訳でもなく、影は容易に答えた。

「じゃあこれからは困ったらお互い様ってやつなんで、今から俺を安全な所に運んでくださ〜い」
影は寝転んだままにそう言った。動けないのは確かだったので、それは影なりの救済を求める声だった。
それに光はようやく驚いたように少し顔を上げて、目を見開いた。
「......い、意味...分かんないし...」
注意深く聞いていなければ聞き逃すほどの声で、光はそう反論した。
ようやく発せられた言葉に影は満足そうにニヤニヤと笑ってからかうように言った。
「ダメダメ、俺みたいな子供も運べないような体力じゃ、このソウルと協力なんて出来ないよ」

影がそう言うのを困ったような顔で見つめて、光はやっと立ち上がった。
「......落ちても...、知らない......から」

光はそう拗ねたように言うと、影に手を伸ばした。

そして、影と光は初めて、手を取り合って、向き合った。

光と影の運命は、此処で大きく、変化を遂げた。

ゴースト×ゴースト短編小説、悪魔のような

影は引き寄せられた。
醜く黒く、闇の渦巻く胸の内に、秘める憎悪と絶望に。
「ねえねえ、あんたどうしたの?」
身を潜めるように、建物の陰に動かず隠れていた青く黒い少年に、一つの影は声を掛けた。
「あんたが嘘を覚えた日より100倍汚い色をしてるよ、俺が一番好きなものさ」
しかし少年にそんな記憶はなかった。影が面白そうに話すことを、少年は理解出来ぬまま、影を見つめていた。
「会ったことがある?」
「あるよ、でも覚えてなくても無理はない」
影は少年に優しく言った。その言葉に心を開く少年に、影は僅かな不快感を抱く。
「ねえ、どうしてそんなに暗い感情を抱いているの」
影は問う。自らの悪食の為に。
「信じていた人が僕の首を絞めたんだ」
影はその答えに酷く楽しそうに笑った。その笑顔は信じてはいけないものだ。
「へえ、それは何故?」
「知らない、でもそいつは悪魔だった。本物じゃなかったんだ」
事実を述べて、自分だけで導き出した正解を吐く少年は、間違いだとは気付けない。
影はそんな少年に笑いかけた。
「悪魔かぁ、それは良くないね」
影は悪魔のように笑い続ける。それに少年は頷くのだ。深く、全て分かっているように。
「だから殺すんだ。僕が悪魔を殺すんだ。」
少年は黒い心でそう言った。ああ、汚い悪魔のような心だ。
「嘘、本当に?」
影はおどけた。本当に驚いたんだ。だって悪魔は...ねえ?
「本当に。決めたんだ。やらなきゃいけない。」
少年は本気だった。影は酷く驚いた。こんな結末を望んでいたけど、叶うとは思っていなかったから。
「...そうか、じゃあ俺はよく見ているよ」
手を掛けなかった。本当は悪巧みに巻き込もうとしたけれど、今回はこいつが自分から勝手なことを言ったから。
あーあ、なんてことだろう。楽しいけれど、楽しいけれどね。
「うん、よく見ていて。僕は...やり遂げるんだ。」
影は思った。少年は愚かでそして、自分の理想を歩んでくれる存在だと。
「...楽しみにしてる、久々のご馳走だね」
楽が出来て、それでも美味しいモノが食えるんだ。
そんなのは一度目以来だと、影は思った。
少年はそんな影に不思議がることもせず、何かじっくりと考えていた。

何かって?それはね、とてもいけないことだ。
少年が自らを守る為に必死になって覚えた殺されない為の知識を逆算している。

それがどういうことか分かる?

そう、正解。殺す為の知識に変わるのさ。

何処を何でどうするとかね、誰をどうして殺そうとかね、彼は必死に考えるんだ。
頭で分かっていることが大前提だから。彼に突発的に動く力はないから。

「......これで殺せる、しっかりと」

少年は笑った、その黒い心で。

影は見ていた、その黒い心で。

少年は、影さえ気味が悪くなるような笑みを浮かべて、夢の中へ堕ちていった。

ゴースト×ゴースト短編小説、創造神は

はーい!今日は頑張って書きました(。-_-。)
エグゼ目線でーす!今のシリーズで彼目線慣れました\(//∇//)\
でもヒトガミが一度目の神様達にとってなんなのかよく分かんなかったんで難しかったです(/ _ ; )
ラグナがどんな奴かもちょっと分かる話になってるんで…まあ見てってくだせぇ!
では、どーぞ!



私は最近よく働くと、自分でも思う。
三度目の邪神と創造神を見つけ出すのは私だし、結局あの紅い子を神にしたのも私だった。
あまり好きな仕事ではないんだけど、三度目の世界を創り上げるには必要不可欠なことで、ローゼの機嫌をとるにも必要不可欠なことだ。

退屈凌ぎに降りた二度目の世界も想像したより面白いが、一度目ほど熱中出来ることもないし、流石にそろそろ自分という存在に飽きが回ってきた頃かもしれない。
だがこればかりはどうしようもなく、自分の存在は受け入れてやることしか出来なかった。

そんなどうにもならないことを考えていた私に隣の小さな遣い達が声を掛けた。
「あの人間、一人で喋ってるの」
「なんだ?我には何も見えんが」
そんなことを言う遣い達に釣られて、私も視線を前に逸らした。

ああ、本当だ。彼はこの前、紅い子と話していた。

昼間のように水面を輝かせる太陽はないから、海はどこまでも漆黒だった。
今日は新月なのか、いつもよりも益々暗い。

でもその少年は、この上ないくらいに幸せそうな顔で笑いながら、話を続けていた。
「…何か見えてる」
あの子にはあの子だけの世界が見えているのか。誰にも理解されることない、彼だけの特別な世界が。

『メイ、今日は僕に友達が出来たんだ』
『ああ、でも心配しないで。彼はとてもいい少年だ。メイも見ていただろう?』
『でも彼は邪神になるそうだ。僕のように可笑しくなってしまうかな。』

嬉しそうに、悲しそうに、声色を変えながら話をして。
…なんだか私は、ぼんやり思い出した。
「…ヒトガミ…って居なかった?」
遣い達は息を揃えるように同時に私を見た。が、私がこれ以上何も言わないのを悟ると、静かに視線を戻した。
「…ヒトガミか…聞いたことはあるが、一度目ではなかったか?」
「そうなの、ミュー達のこと信じてくれる人間なの」
どうしてか、とでも聞きたそうな顔をしながら二人は少年を凝視する。
この遣い達二人も、ヒトガミが滅びた当時は生まれていなかったはずだ。
まあ、ヒトガミのことに関しては私の勘違いかそうでないかは別として、彼には見覚えがあるな。
ヒトガミは確か滅びたと聞いた。信仰心だけで生きていた彼等はあまりにも無力だったからだ。
…だったら彼は、生き残りの可能性がある。

「ディーにミュー、彼は創造神候補になるかもしれない。」
私が大して変わらない口調でそう言うと、二人は「え」と声を漏らした。
私はいつも気まますぎるから、二人を驚かせてしまって少し申し訳ないけど。

そんな私達に気付く様子もない少年は、まだ楽しそうに笑っていた。

説明しろと言われれば無理だが、彼は何か大きな感情を抱いているような気がする。それも良きものではない。
禍々しくて、歪で、不安定な何か。
とても人間の生きる数十年や其処らではでは得ることの出来ないような、大きな何かだ。

それが、少年の不運な人生を語っている。

「決めました、彼が創造神です」

私がそう、あっさりと告げて踵を返すと、遣いの二人は驚いて焦るように着いてきた。

「おい、待たないか!そんな…そんな適当なことで良いのか?」
「そうなの!次の世界を決める大事な存在なの…」

そんな心配そうな二人を横目に私は人差し指を立てて笑う。この二人は本当に良い子達だな。

「適当じゃないから安心して。彼は君達には見えない、大きなものを背負ってる。紅い彼と同様…もしくはそれ以上の…何かを、ね」

そう言うと、二人は顔を見合わせて困ったように首を傾げた。
が、それがまた楽しくて私はつい声を漏らして笑ってしまう。

さあ、ローゼに私の勝ちだと言ってこなきゃ。

私達は少年の笑い声を聞きながら、夜の海を後にした。

創造神候補について

どーも朱音でーす!
新キャラくん、ちゃんと考えました。授業中とかに(⌒-⌒; )
とびっきりの不幸とは一体なんだ…と深く深く考えて朱音なりに答えは出ましたが大したことないかも分かりません(。-_-。)
まあこんな言い訳言っててもアレなんで…早速説明していきましょう!
色々勝手に考えたんで無理ですそういうの…と思ったらキッパリとお願いいたしますね!

まず、名前はラグナ、です。容姿はこんな感じ。

黒髪に紫のメッシュ入り、褐色気味かな?金ピカの目でーす!
装飾が多いですが詳しい理由はまた後で。
自分を「ヒトガミの一族」と名乗るちょっと不思議な少年です。
年は18歳。創造神の姿はまた後で載せますm(._.)m これはまだ人間の姿。

18歳と言えども、彼は一度目から生きていますので正確には18歳ではありません。
その理由は、彼の過去を説明した後分かるはず…なので、説明していきたいと思います!

彼が一度目に生まれ育ったのは小さな村。
ある一族に生まれ、隠れて生活する一族だったために人間達にはあまり知れ渡っていませんでした。
そしてこの村、ある頸飾が祀られていました。
それは「神物の欠片」とされ、神がこの世に落としていったものだと言い伝えられていたのです。
一族はその頸飾を守ることで神の器となる人間が生まれることを信じていました。
神の器となる子供、それを適合者と呼び、言い伝えでは千年に一度生まれると言われていたのです。
そして、適合者として生まれたのがラグナでした。
ラグナは祀られている頸飾から神の気配を感じることの出来る唯一の人間だったのです。
ヒトガミ達はラグナの誕生を祝いました。そしてラグナに言いました。18歳になるまで神の力に覚醒してはいけない、と。
その目的はラグナの体が立派な器になるまで成長させる為と、神として恥じないように精神を成長させる為でした。
一族の誇りを何よりも大事にしていたラグナは素直にそれを受け入れていました。
そしてラグナの弟のメイが生まれても神の器とはならず、言い伝えが本当だと確信したラグナはより一層適合者としての自覚を強く持つのでした。

そして彼が17歳になるまで何事もなく時は過ぎ、ラグナは立派に成長しました。
優しく強く、真面目に育ったラグナはもう直ぐに迫った18歳の誕生日をただ静かに待っていたのです。
が、事件が起きます。ラグナの誕生日の前夜でした。
神物の欠片を守る為、息を潜めて生きてきたヒトガミ達の存在に勘付いた、神を良しとしない者達が現れたのです。
神の信仰の象徴である神物の欠片は狙われ、神を崇めるラグナ達一族の村は焼き払われました。
戦う力のないヒトガミ達は成す術なく殺され、ラグナは憎悪を覚えます。
そして、弟と共に息を潜めていても何れ殺されると考えたラグナは神物の欠片を守るべく、弟を連れ飛び出して行きました。
そして神物の欠片の元に辿り着くと、せめてもの一族の誇りを守ろうと必死になっていたラグナは注意を逸らしてしまい、弟を囚われてしまいます。
弟か神物の欠片かの選択を迫られたラグナは、神物を差し出す選択をし、弟を助け出しました。
しかし弟のメイはラグナを慕い、神になるラグナを誰よりも尊敬していた為に、奪われる神物の欠片を黙って見ていることが出来ませんでした。
メイはラグナの手を離れ、神物の欠片を奪い返しましたが、力のない体は呆気なく振り払われ火の中へ消えていきました。
それを見たラグナは初めて頭が真っ白になるほどの怒りを知り、神物の欠片を手に取りました。
自分が誕生日を迎えたことを察したラグナは神の力に覚醒し、盗賊達を薙ぎ払い、火を鎮めました。

何もなくなり、静かになった村の中、ラグナはもう一つの言い伝えを思い出します。
ヒトガミの魂は生まれると同時に身につけた装飾の元に還る、と。
ラグナは村の人々の焼死体を巡り、残った金属の装飾を集めました。
そしていつか、ヒトガミ達の器を創り、一族が復活することを望みます。

神の力に覚醒したラグナは寿命が消え、神物の欠片を持つ限り、ある程度の力を発揮することが可能となりました。
そして、一度目の世界の終わりさえ越えて、二度目の終わりまで創造神になる為彷徨い続け…。


みたいな←
なっげ〜〜!ビックリだよ(;^_^A

ラグナの一人称は「僕」、身長は170ちょいかな、性格は重度の情緒不安定。一族の幻覚を見たり、突然笑ったり怒ったり泣いたり…とそんな調子で可笑しくなりきってしまった男の子です。
普通にしている時は優しく真面目、一族を愛する仲間思いな良い子ですよ!
こんな性格にしたのは私の趣味だけじゃなくて、レディアくんがラグナを見て普通の人間が長く生きるとどうなるかって思い知るといいなぁって思ったからです←
ラグナにも大切な人と仲間が居て、そしてそのために色んなものを犠牲にした訳で…
なんか重なる部分があるようにしたかったんです。

…はい、ここまでがラグナの初期設定になる部分かな!
あとは色々これから追加していけたらいいな〜〜!だって空白の時間が長過ぎるし!
そして一応創造神になった姿も!変更する可能性ありです(。-_-。)

ホントは全体を通してイメージしたのは黒猫でした。割とみんな作る上でイメージはあるんですがね!
ちょっと分かりやすいとこだとカリンは狐だしセリエルは蝶々だったし…
そんなことはどうでもいいな!まあそんな調子で黒猫イメージです!
気紛れ…ではないけど怒ると人が変わりそうだし、変化が大きそうだなって思ったので。
あとはー、服とかのイメージは東洋の民族衣装とかその辺だったんだ最初はσ^_^;
なんか大分逸れた気がしないでもないですが←
でもまあ、纏まったような気もするのでこれはこれで良かったかな!
それにもしももしもこれで決定したら一度目の神様にとって神物の欠片とかヒトガミ達がどういう存在だったのかとか考えなきゃだし色々忙しくなりそうですが…!まあそれも楽しいってことで!

はい!このくらいですか??σ^_^;
意見待ってます…(/ _ ; ) 追加したらよさそうじゃーん!とか丸ごとダメだよー!とか…
まあなんでもいいんでね!ここまで付き合ってくれたことに感謝です(>人<;)
では!次は小説で会いましょう!またねー!(・ω・)ノ

ゴースト×ゴースト小説、奇跡のドール Ⅴ

はーい!遅れましたシリーズでーす!すぐ余談しだすのでいけないね…(。-_-。)
今回はV!今日はちょっとドキドキする展開だよ♪( ´▽`)
エグゼとリリアの関係に急展開!?…なんて少女マンガチックなノリで読んでください←
では!興味のある方、どうぞ‼



休めると思ったのは束の間、なかなかそうも行かなかった。
私が帰ろうとする前、リリアが「我が儘言っていい?」とか言うものだから少しの嫌な予感を抱きながら聞き返すと、
「ベリーの人形、リリア、エグゼリアルと一緒に作りたい。」
と、そうお誘いを受けたのだ。当然断ることも出来ず、帰るのは諦めた。
別に絶対天界に帰らなきゃいけないなんて決まりはないしいいか、なんて思い始めていた所だったので丁度良かった訳だが。

「だけど私、リリアみたいに器用じゃないよ?」
本当に、絵のことで自信を無くしたばかりだからあんまり期待されると胸が痛む。
しかしそんな心配はいらない、とでも言うようにリリアは笑って言った。
「リリアの傍に居てくれればそれだけでいい。」
その言葉に私は、心の片隅で安心した。作れなんて言われたらどんな呪いの人形が出来るか分からない。
ベリーを泣かせてしまうだろう。

そんなことを考えているとリリアは思い出したように、「あ、でも」と呟き、
「作ってみてもいいよ?」
と提案してきた。しかし今回ばかりは本当に全く自信がなかったので「遠慮しておくよ」とかわした。

さっき、私がこの家に来た時、日が傾き始めていたからもうすぐ夜か。
それに気付いたのかリリアが蝋燭に火を灯した。優しい暖かい光がゆらゆら揺れて私達の影が現れる。
そしていつも作業をしている椅子に腰掛けたから、私もその隣に椅子を持って来て座った。
布を取り出したり針に糸を通したり…そういう作業も滞りなく進むから凄いと思う。
私ならこの時点で面倒臭くなって止めるのに、やっぱりリリアは私より凄いかもなぁ。

「エグゼリアル、あのね。」
リリアは針先に視線を落としたまま、そう声を掛けてきた。
「なに?」
いつもは話すときは必ず目を見てくるけど、今日は違うんだ。
その表情を見ていると、なんだか難しそうな顔をしていて不思議に思った。急にどうしたんだろう。

「あの、あのね。この前、エグゼリアルがベリーの話、してくれたでしょ?」
「うん」
「…そ、その時さ、リリア、エグゼリアルの、彼女になってたでしょ?」
「……まあ、うん」
リリアの声が震えていることに、こちらまで緊張して、リリアの顔から目を逸らしてしまう。
あの話、気にしてたってこと…?
まさか、リリアがそういう恋愛面の話を気にするような子だと思ってなかったから軽率に話してしまったけど、やっぱり、リリアも女の子だもんなぁ…。これは不覚だった。

そんな風に少し焦っていると、リリアが「痛っ」と声を上げるから何かと思ってみたら、その細い指に針を刺してしまったみたいで。涙目で指を舐めた。
「…ちょっと落ち着いたら?」
自分が言えることでもないなと思いながら、リリアにそう声を掛けた。
普段、指を怪我したりなんて見ないから、リリアも相当焦っているのかもしれない。

「…あ、あの、リリアね?」
右手に持っていた針を震える手で針山に刺しながら、そう言う彼女を見て、全然落ち着いてないんだなと思いながら「うん」と応えた。
「あの後、たくさん、考えたんだよ。でもリリア、エグゼリアル以外の男の人、全く知らないからね、あの、エグゼリアルを好きって言うの、可笑しいのかなとか、思ったりね、したの…。」
その言葉のひとつひとつが、体の奥深くまで染みて熱を帯びるようだった。ああ、こういうときこそ冷静にならなきゃ。
それなのに、なんでか分からないけど、リリアの顔を見ることができなかった。

「でもね、リリアに命をくれて、リリアに大好きなものを見つけさせてくれて、リリアに生きる意味を教えてくれたのはエグゼリアルだからね、リリアにとってエグゼリアルはやっぱり特別なんだよ。」

「だから」とリリアが此方を向いたから、多分、私は凄く真っ赤な顔をしているけど、リリアの方を向いた。
その綺麗な瞳と私の目を合わせるのはもう何十回目なのに、今は、今まで以上に、緊張している。
言葉の続きを聞くまでの時間が、もうなんだか、すごく永くて恐ろしいくらいだった。

「…リリア、エグゼリアルの、彼女がいい……」

あ、と声が漏れてしまって、妙に恥ずかしかった。でも、嬉しいんだなきっと。
この胸の高鳴りは、この声の震えは、私が本能的に喜んでいるからなんだ。…多分。

「…私も、…リリアの、彼氏が、いい……」

…どうしよう、言っちゃった。
しかし、私が言い終わると、リリアは声を堪えきれずに笑って、勢いのままに抱き締めて来た。
ああ、なんか、暫く振り…。

「急に言っちゃってゴメンね、でもリリア、ちゃんと言えたよ!」
柔らかい金髪越しの背中に手を回すと、急に実感が沸いて、変に力んでいた体がやっと緩んだ。

これからは誰に、人形などに現を抜かすなんて、と呆れられても自信を持って反論できる気がする。
リリアはもう空っぽな人形じゃない。ひとつの命だ。私が守るべき、ひとつの生命。
神だってひとつの生命だ。下界の存在に心を奪われて何が悪い。私が正しいと思ったことをすればいいんだ。


長いこと同じようにしていたが、その内リリアは疲れ果てて眠ってしまった。
これでベリーにも堂々と「彼女居るよ」と公言できるな。厄介な言い訳は必要ない。
だけど、こう言う恋人同士、というのか? そういう関係になったからと言って具体的に変わることがあるのだろうか。

リリアを何とかベッドまで運んで、起きてないことを確認すると、流れるように外に出て来てしまった。

扉を開けて、花がよく見える位置に腰掛けると、深く息を吐いた。
こうも一日一日を貴重だと思ったのは初めてだ。刺激もなく永遠と言う時を過ごすのかと思っていたから、一日を無駄にするようなことも、多かったような気がする。
だけど、本当に、リリアに出会ってそういう気持ちもガラッと変わったな。
出来るだけ多くの日々を有意義に過ごしたいと、無駄にしたくないと、そう思えるようになった。

彼女と出会うきっかけになったのはこの花畑だし、花たちにも本当に感謝しなきゃいけないな。

なんて考えて、夜空に向かって大きく背伸びをした。そうして、気持ち新たに立ち上がると、また世界にワクワクしてくる。
月が綺麗な夜だな。月明かりに照らされた花たちも、また美しい。

そろそろ戻ろうかと考えて、扉に向かったが、その時、何だか妙にポストが気にかかった。
そういえば一回も見なかったなぁ、ポスト。そう思ってあけると、そこには一枚の紙が入っていた。
「…なんだ?」
丁度月明かりのお陰で薄明るかったので、その場で広げてその手紙を読んでしまう。
それは、丸みがかって、その上整った女性らしい字で書かれていた。

「『私が子供の時、人形を作ってくれたおばあさんへ』…?」
どうも少し長文らしかったので、煉瓦の壁に背を預けてじっくり読むことにした。

『もう大人になるので、両親は人形を捨てろと私の意見を聞いてくれません。でも私は、この子を捨てたくないんです。だから返そうと思ったんですが、留守のようなので、おばあさんが私に人形をくれたあの場所に置いておきます。この子には、リリアと言う名前をつけました。ゴーストの襲撃を受けて死んでしまった、幼かった妹の名前です。妹を失った私の心の傷を癒してくれたのは、この人形でした。本当に、この子を作ってくれてありがとうございました。』

……あ、繋がった。今まで気にかかっていたことがほぼ全部解決した感じがする。
用はリリアという人間だった少女の魂が、リリアと名付けられた人形に結びついてしまった訳だ。
自分の姉がリリア、と呼ぶのに必死に応えようとした妹が生んだ奇跡だったのか。
そして、ゴーストに殺されたことに怯えているはずのリリアが、外を恐れているのは必然とも言える。

そして、この家に住んでいたらしいおばあさんも、何らかの事情でこの場を離れてしまった訳で。
もしかしたら持ち主を失ったリリアは名前を呼ばれることもなくなり、地縛から解放されたのかもしれないが、同時にそれが寂しかったのかもしれない。
そんな時に丁度私が此処へ来たから、自分の存在を知らせる為、反射的に人形に魂を宿したのか。
で、本人も無意識の行動だったから、恰も私が命を与えたようになってしまった…と言う話かもなあ。

まあどういう経緯にせよ、今彼女が生きていることは確かなことだ。
リリアにとって本当に幸せな道だったかどうかは分からないけど、少なくとも私は彼女に出会えてよかったと思って居るし、彼女も結果的に…思いを伝えてくれたから、幸せではあるんだろうと信じたい。

私は持ったままだった手紙を何となくポストに戻して、閉じてしまった。
本来私が読むものでは無かったし、元の状態に戻しておいた方がいいよね。

そんな自分の考えに、どこまでも誤魔化す癖は直らないんだろうなぁと我ながら呆れた。
リリアのように優しく素直に生きることが出来れば、私ももう少し、立派な神になれたのかな。

今日だけは、月の輝きがいつもより眩しく見えた。