ゴースト×ゴースト小説、No.1

麻酔に堕ちるこの感覚を、誰かが幸福と言った。
又、俺はそれを信じていた。

人間は人間をつくり変えて、新しい人間を造った。
俺は間違いなく此処に居るのに、俺を【改造】したと言った。
...何も変わっていないのに。

俺は外を知らなかった。無機質な音を数える青のような緑のような俺の世界は、冷たく重い。
自分が誰かも分からないような、世界。

「俺は人間なの?」
空っぽに真っ白に、塗り替えられてしまった脳に反響するのは、あまりにシンプルで、暴力的な音。

『国でNo.1の兵器だ』

俺は外に出た。でも、俺は此処に居る誰とも違うらしかった。
人は珍しい目で俺を見て、何かを囁いては波打つように入れ替わる。

人間と兵器は違う。

その意味を理解したのは、この瞬間だった。

俺はね、人間によって人間ではなくなった人間なんだ。兵器はね、戦うんだよ。何れ現れる神と。国の為に命を捨てるの。

『折角壊れるならば、壊れる瞬間まで使わなければ勿体無い』

骨の折れる音を知っている。銃に撃ち抜かれる音を知っている。埋め込まれた何かが壊れる音を知っている。

自由のない、ただ都合の積み重なった四角の中で、何かが出来るようになるまで、血を流した記憶のこと。

薬の匂いは単調で、複雑さのない、この世界と同じだ。
この匂いが、この痛みが無くなれば、また繰り返す日常。

泣き叫ぶ時間も勿体無い。嘆き悲しむ体力も惜しい。
誰も理解してくれない。誰も助けてくれない。誰も此処には来てくれない。
誰もが兵器を嫌ってる。誰もが俺を利用したがってる。

必要とされるのに、嫌われる。

俺はNo.1なのに、どうして好きになってくれないの。

俺だって嫌いだ。俺を認めてくれない存在なんて。
都合のいい時だけ俺が大事なんて嘘吐いて。
痛いって動けなくても、聞いてる振りして無視したくせに。
苦しいって叫んでも、嘘で宥めて睨んだくせに。

人間なんてみんなそうだ。心なんて何処にもない。
信じても返ってこない。俺を信じてなんてくれない。

もう見ないで、見せ物じゃない。
戦う為に生まれてきたわけじゃない。
血を流すために生まれてきたわけじゃない。

でも、何のために生まれてきたのか分からないから。

......生まれてきたのは、間違いだったかな。

麻酔の毒は、俺の思考まで犯しているようだった。