ゴースト×ゴースト小説、奇跡のドール Ⅴ

はーい!遅れましたシリーズでーす!すぐ余談しだすのでいけないね…(。-_-。)
今回はV!今日はちょっとドキドキする展開だよ♪( ´▽`)
エグゼとリリアの関係に急展開!?…なんて少女マンガチックなノリで読んでください←
では!興味のある方、どうぞ‼



休めると思ったのは束の間、なかなかそうも行かなかった。
私が帰ろうとする前、リリアが「我が儘言っていい?」とか言うものだから少しの嫌な予感を抱きながら聞き返すと、
「ベリーの人形、リリア、エグゼリアルと一緒に作りたい。」
と、そうお誘いを受けたのだ。当然断ることも出来ず、帰るのは諦めた。
別に絶対天界に帰らなきゃいけないなんて決まりはないしいいか、なんて思い始めていた所だったので丁度良かった訳だが。

「だけど私、リリアみたいに器用じゃないよ?」
本当に、絵のことで自信を無くしたばかりだからあんまり期待されると胸が痛む。
しかしそんな心配はいらない、とでも言うようにリリアは笑って言った。
「リリアの傍に居てくれればそれだけでいい。」
その言葉に私は、心の片隅で安心した。作れなんて言われたらどんな呪いの人形が出来るか分からない。
ベリーを泣かせてしまうだろう。

そんなことを考えているとリリアは思い出したように、「あ、でも」と呟き、
「作ってみてもいいよ?」
と提案してきた。しかし今回ばかりは本当に全く自信がなかったので「遠慮しておくよ」とかわした。

さっき、私がこの家に来た時、日が傾き始めていたからもうすぐ夜か。
それに気付いたのかリリアが蝋燭に火を灯した。優しい暖かい光がゆらゆら揺れて私達の影が現れる。
そしていつも作業をしている椅子に腰掛けたから、私もその隣に椅子を持って来て座った。
布を取り出したり針に糸を通したり…そういう作業も滞りなく進むから凄いと思う。
私ならこの時点で面倒臭くなって止めるのに、やっぱりリリアは私より凄いかもなぁ。

「エグゼリアル、あのね。」
リリアは針先に視線を落としたまま、そう声を掛けてきた。
「なに?」
いつもは話すときは必ず目を見てくるけど、今日は違うんだ。
その表情を見ていると、なんだか難しそうな顔をしていて不思議に思った。急にどうしたんだろう。

「あの、あのね。この前、エグゼリアルがベリーの話、してくれたでしょ?」
「うん」
「…そ、その時さ、リリア、エグゼリアルの、彼女になってたでしょ?」
「……まあ、うん」
リリアの声が震えていることに、こちらまで緊張して、リリアの顔から目を逸らしてしまう。
あの話、気にしてたってこと…?
まさか、リリアがそういう恋愛面の話を気にするような子だと思ってなかったから軽率に話してしまったけど、やっぱり、リリアも女の子だもんなぁ…。これは不覚だった。

そんな風に少し焦っていると、リリアが「痛っ」と声を上げるから何かと思ってみたら、その細い指に針を刺してしまったみたいで。涙目で指を舐めた。
「…ちょっと落ち着いたら?」
自分が言えることでもないなと思いながら、リリアにそう声を掛けた。
普段、指を怪我したりなんて見ないから、リリアも相当焦っているのかもしれない。

「…あ、あの、リリアね?」
右手に持っていた針を震える手で針山に刺しながら、そう言う彼女を見て、全然落ち着いてないんだなと思いながら「うん」と応えた。
「あの後、たくさん、考えたんだよ。でもリリア、エグゼリアル以外の男の人、全く知らないからね、あの、エグゼリアルを好きって言うの、可笑しいのかなとか、思ったりね、したの…。」
その言葉のひとつひとつが、体の奥深くまで染みて熱を帯びるようだった。ああ、こういうときこそ冷静にならなきゃ。
それなのに、なんでか分からないけど、リリアの顔を見ることができなかった。

「でもね、リリアに命をくれて、リリアに大好きなものを見つけさせてくれて、リリアに生きる意味を教えてくれたのはエグゼリアルだからね、リリアにとってエグゼリアルはやっぱり特別なんだよ。」

「だから」とリリアが此方を向いたから、多分、私は凄く真っ赤な顔をしているけど、リリアの方を向いた。
その綺麗な瞳と私の目を合わせるのはもう何十回目なのに、今は、今まで以上に、緊張している。
言葉の続きを聞くまでの時間が、もうなんだか、すごく永くて恐ろしいくらいだった。

「…リリア、エグゼリアルの、彼女がいい……」

あ、と声が漏れてしまって、妙に恥ずかしかった。でも、嬉しいんだなきっと。
この胸の高鳴りは、この声の震えは、私が本能的に喜んでいるからなんだ。…多分。

「…私も、…リリアの、彼氏が、いい……」

…どうしよう、言っちゃった。
しかし、私が言い終わると、リリアは声を堪えきれずに笑って、勢いのままに抱き締めて来た。
ああ、なんか、暫く振り…。

「急に言っちゃってゴメンね、でもリリア、ちゃんと言えたよ!」
柔らかい金髪越しの背中に手を回すと、急に実感が沸いて、変に力んでいた体がやっと緩んだ。

これからは誰に、人形などに現を抜かすなんて、と呆れられても自信を持って反論できる気がする。
リリアはもう空っぽな人形じゃない。ひとつの命だ。私が守るべき、ひとつの生命。
神だってひとつの生命だ。下界の存在に心を奪われて何が悪い。私が正しいと思ったことをすればいいんだ。


長いこと同じようにしていたが、その内リリアは疲れ果てて眠ってしまった。
これでベリーにも堂々と「彼女居るよ」と公言できるな。厄介な言い訳は必要ない。
だけど、こう言う恋人同士、というのか? そういう関係になったからと言って具体的に変わることがあるのだろうか。

リリアを何とかベッドまで運んで、起きてないことを確認すると、流れるように外に出て来てしまった。

扉を開けて、花がよく見える位置に腰掛けると、深く息を吐いた。
こうも一日一日を貴重だと思ったのは初めてだ。刺激もなく永遠と言う時を過ごすのかと思っていたから、一日を無駄にするようなことも、多かったような気がする。
だけど、本当に、リリアに出会ってそういう気持ちもガラッと変わったな。
出来るだけ多くの日々を有意義に過ごしたいと、無駄にしたくないと、そう思えるようになった。

彼女と出会うきっかけになったのはこの花畑だし、花たちにも本当に感謝しなきゃいけないな。

なんて考えて、夜空に向かって大きく背伸びをした。そうして、気持ち新たに立ち上がると、また世界にワクワクしてくる。
月が綺麗な夜だな。月明かりに照らされた花たちも、また美しい。

そろそろ戻ろうかと考えて、扉に向かったが、その時、何だか妙にポストが気にかかった。
そういえば一回も見なかったなぁ、ポスト。そう思ってあけると、そこには一枚の紙が入っていた。
「…なんだ?」
丁度月明かりのお陰で薄明るかったので、その場で広げてその手紙を読んでしまう。
それは、丸みがかって、その上整った女性らしい字で書かれていた。

「『私が子供の時、人形を作ってくれたおばあさんへ』…?」
どうも少し長文らしかったので、煉瓦の壁に背を預けてじっくり読むことにした。

『もう大人になるので、両親は人形を捨てろと私の意見を聞いてくれません。でも私は、この子を捨てたくないんです。だから返そうと思ったんですが、留守のようなので、おばあさんが私に人形をくれたあの場所に置いておきます。この子には、リリアと言う名前をつけました。ゴーストの襲撃を受けて死んでしまった、幼かった妹の名前です。妹を失った私の心の傷を癒してくれたのは、この人形でした。本当に、この子を作ってくれてありがとうございました。』

……あ、繋がった。今まで気にかかっていたことがほぼ全部解決した感じがする。
用はリリアという人間だった少女の魂が、リリアと名付けられた人形に結びついてしまった訳だ。
自分の姉がリリア、と呼ぶのに必死に応えようとした妹が生んだ奇跡だったのか。
そして、ゴーストに殺されたことに怯えているはずのリリアが、外を恐れているのは必然とも言える。

そして、この家に住んでいたらしいおばあさんも、何らかの事情でこの場を離れてしまった訳で。
もしかしたら持ち主を失ったリリアは名前を呼ばれることもなくなり、地縛から解放されたのかもしれないが、同時にそれが寂しかったのかもしれない。
そんな時に丁度私が此処へ来たから、自分の存在を知らせる為、反射的に人形に魂を宿したのか。
で、本人も無意識の行動だったから、恰も私が命を与えたようになってしまった…と言う話かもなあ。

まあどういう経緯にせよ、今彼女が生きていることは確かなことだ。
リリアにとって本当に幸せな道だったかどうかは分からないけど、少なくとも私は彼女に出会えてよかったと思って居るし、彼女も結果的に…思いを伝えてくれたから、幸せではあるんだろうと信じたい。

私は持ったままだった手紙を何となくポストに戻して、閉じてしまった。
本来私が読むものでは無かったし、元の状態に戻しておいた方がいいよね。

そんな自分の考えに、どこまでも誤魔化す癖は直らないんだろうなぁと我ながら呆れた。
リリアのように優しく素直に生きることが出来れば、私ももう少し、立派な神になれたのかな。

今日だけは、月の輝きがいつもより眩しく見えた。