ゴースト×ゴースト小説、幸福理論

「君は頭が悪いからね、此処にしか居場所はない。」
そう言われた日の事を、今日まで鮮明に覚えている。こういう嫌な記憶は消してくれないのに、俺の記憶は、この言葉から始まっている。
俺に過去の記憶はない。消されてしまった。過去に縋ることが出来なくなると、人は弱くなる。弱くなった俺を、縋るものが欲しかった俺を、この組織はいとも簡単に利用した。
弱い子供は皆居場所が欲しい。必要とされる場所が欲しい。どんなに自分に価値がないとわかっても、それを求める行為は止まらない。


「俺にも世界の役に立てますか。」
勿論、という返答が魔法だった。眠って目を覚ますと、俺の腕は痛みを感じなかった。

「俺はこの世界で必要とされますか。」
勿論、という返答が魔法だった。眠って目を覚ますと、俺の目は世界の果てまで見渡せた。

「俺はこの世界を守れますか。」
勿論、という返答が魔法だった。眠って目を覚ますと、俺の足はずっと早い走りを実現した。

「俺はこの世界で絶対的な存在になれますか。」
勿論、という返答が魔法だった。眠って目を覚ますと、俺は世界から『兵器』と呼ばれていた。

後戻りが出来る限度と言うのは、駆け抜けている最中はよく分からない。振り返る事で気付き、その時には超えている。
立ち止まる事の出来ない迷路は出口がなく、永遠に彷徨う約束を交わされる。

「No.1、俺はNo.1だ。」
成功したNo.1。兵器になれたNo.1。屍の頂点に立つNo.1だ。
No.1であっても嬉しくない。明日には魔法をかけられて、明後日には誰かを殺める。
俺の体は俺のものじゃないらしいので、諦めている。だけど、いつかあの空を飛ぶ夢を見てる。
迷路は壁が高くて、抜けられないから、いつか羽を伸ばしてそれを越える夢を。

「頭が悪いと空も飛べないかな。」
この世界では、数字と数字が足せないと、兵器にされるらしくて。
「1+1ってなんで2なんだろう。」
数字はよく分からない。この問題が俺を兵器にしたのだけど。
「まあ...生きてれば分かるかもしれないよな。」
迷路の中にだって答えはあるよ。
魔法で急にわかったりするかもしれないし。

怖い魔法も、絶対に意味がある。今はここにしか居場所がなくても、きっともっと広くて大きな場所へ行けるようにしてくれるんだ。
そんなの幸せ以外になんて表現するんだろう。

俺は幸せ者だな。迷路の中は幸せだらけだ。

新しい魔法は、少しあとが痛かったけど。

新しい魔法は、少し息が苦しかったけど。

新しい魔法は、少し血が止まらなかったけど。


俺は、今日も幸せだ。