ゴースト×ゴースト短編小説、悪魔のような

影は引き寄せられた。
醜く黒く、闇の渦巻く胸の内に、秘める憎悪と絶望に。
「ねえねえ、あんたどうしたの?」
身を潜めるように、建物の陰に動かず隠れていた青く黒い少年に、一つの影は声を掛けた。
「あんたが嘘を覚えた日より100倍汚い色をしてるよ、俺が一番好きなものさ」
しかし少年にそんな記憶はなかった。影が面白そうに話すことを、少年は理解出来ぬまま、影を見つめていた。
「会ったことがある?」
「あるよ、でも覚えてなくても無理はない」
影は少年に優しく言った。その言葉に心を開く少年に、影は僅かな不快感を抱く。
「ねえ、どうしてそんなに暗い感情を抱いているの」
影は問う。自らの悪食の為に。
「信じていた人が僕の首を絞めたんだ」
影はその答えに酷く楽しそうに笑った。その笑顔は信じてはいけないものだ。
「へえ、それは何故?」
「知らない、でもそいつは悪魔だった。本物じゃなかったんだ」
事実を述べて、自分だけで導き出した正解を吐く少年は、間違いだとは気付けない。
影はそんな少年に笑いかけた。
「悪魔かぁ、それは良くないね」
影は悪魔のように笑い続ける。それに少年は頷くのだ。深く、全て分かっているように。
「だから殺すんだ。僕が悪魔を殺すんだ。」
少年は黒い心でそう言った。ああ、汚い悪魔のような心だ。
「嘘、本当に?」
影はおどけた。本当に驚いたんだ。だって悪魔は...ねえ?
「本当に。決めたんだ。やらなきゃいけない。」
少年は本気だった。影は酷く驚いた。こんな結末を望んでいたけど、叶うとは思っていなかったから。
「...そうか、じゃあ俺はよく見ているよ」
手を掛けなかった。本当は悪巧みに巻き込もうとしたけれど、今回はこいつが自分から勝手なことを言ったから。
あーあ、なんてことだろう。楽しいけれど、楽しいけれどね。
「うん、よく見ていて。僕は...やり遂げるんだ。」
影は思った。少年は愚かでそして、自分の理想を歩んでくれる存在だと。
「...楽しみにしてる、久々のご馳走だね」
楽が出来て、それでも美味しいモノが食えるんだ。
そんなのは一度目以来だと、影は思った。
少年はそんな影に不思議がることもせず、何かじっくりと考えていた。

何かって?それはね、とてもいけないことだ。
少年が自らを守る為に必死になって覚えた殺されない為の知識を逆算している。

それがどういうことか分かる?

そう、正解。殺す為の知識に変わるのさ。

何処を何でどうするとかね、誰をどうして殺そうとかね、彼は必死に考えるんだ。
頭で分かっていることが大前提だから。彼に突発的に動く力はないから。

「......これで殺せる、しっかりと」

少年は笑った、その黒い心で。

影は見ていた、その黒い心で。

少年は、影さえ気味が悪くなるような笑みを浮かべて、夢の中へ堕ちていった。