ゴースト×ゴースト小説、奇跡のドール Ⅳ

こんばんは!今回も遅れての更新〜…気紛れなのはいつものことなんですけど←
で、今回も和む内容かな〜今回はそんなに殺伐としないかな〜なんて思いながら
天界の自室ーなんて言葉が出てくるんだけど、一度目の神様はどんな環境で暮らしてるんだろーとか考えたりしました
はい!そんなことは置いといて、やっとIVです〜、どうぞ!



あの後からは、何十年と同じような生活が続いた。
リリアは変わらず花畑の中、あの家に出ることもなく住み続け、人形を作っている。
困ったことと言えば、作った人形をリリアがくれるから、断ることも出来ず貰い続けて、天界の自室が人形だらけになってしまっていることくらいだ。
そして一番驚いたのは彼女が人形だからか歳を取ることがなかったこと。
始めは疑ったが、だんだん確信に変わっていくことが私は嬉しくてたまらなかった。

そしてリリアは、私が居ない時はとにかく人形を作り続けるようで想像以上に材料の消費が早い。
暫く私がリリアに会うことが出来なかった時は「退屈でヘロヘロ」等と意味の分からないことを口走っていたものだ。

だから当然私が手芸店に向かう日も増えた訳で、すっかりあの街の人々には顔を覚えられてしまった。
無論、手芸店の少女とも段違いに親しくなってしまう訳で。
あの日以降は約束通り敬語も抜けていたが、ある日突然「名前教えてよ」と言われた。

別に名前くらい知られても問題ないので私は素直に答えた。
「エグゼだよ。あなたは?」
「私はベリー。ねえ聞きたいことがあるんだけど。」
少女は初めて会ったときと比べれば、確実に大人になっていた。髪も伸ばし始めたようで、子供らしさが抜けたなと思う。
「なんだい?」
「エグゼってさ、ずっと若くない?」
ベリーと名乗った少女は、近付いてきて私の顔を見ながらそう言った。
ああ…、やっぱり同じこと考えるかぁ。この子の成長が分かるくらい時が経ったんだもんなぁ。

「あー…、面倒な事情があるので秘密ね。」
あんまり多くの人に正体を知られるのはよくないしね。
それにこの街の人々はみんなおしゃべり大好きで、一人に教えるとどんな速さで広まるか分かったもんじゃない。
「え〜、若さの秘訣教えてよ!ちょっとでいいから!」
「ダメでーす」
「ケチ〜」
このベリーという子はちょっとしたことで良く拗ねる。
鈍感なリリアとはまた違った素直さがある。感受性豊かでとてもいい子だ。

「エグゼって若々しいしさ、身長も高くていいよね。モテない?」
「へ?」
別のことを考えながら聞いていたから、予想外の質問に間抜けな声が出た。
「結局彼女って居るの?結婚とかさ。」
ベリーはこの質問攻めが厄介だ。素直に答えればきっと楽なんだけど、それだと正体がバレてとんでもないことになる。
最近リリアと一緒に居るから、なんだか嘘がつけなくなってきたんだよねぇ。
「…まあ、好きな子は。」
「やっぱり?ねえ、早く結婚しちゃった方がいいよ!両思いなら!」
…女の子ってなんでこの手の話が好きなんだろうなぁ。意識しなくても苦笑してしまう。
こういうのは聞き返すのが一番だ。

「そういうあなたは彼氏、どうなの?」
ベリーなら顔真っ赤にして照れるのかと思ったけど、彼女はニヤリと笑って私に向かって人差し指を立ててきた。
何だか自慢げな表情だ。もしかして聞いて欲しかったのかな。
「実はね、今度結婚するのよ!」
あ、凄く意外だった。まぁ、確かによく喋るフレンドリーな明るい子だし、彼氏が出来るのは分かる。
それよりまず、私が思うのは違うことだ。
「…もうそんな歳だったのかぁ。」
やっぱり人が大人になるのは早いなぁ。
それなら私の外見が気にかかるのも当然か。この子が子供の時私は既に大人だったんだから。

「まだ子供だって言いたいの?」
「いや、まあ私よりは子供だしね。でも、綺麗になったと思うよ。おめでとう。」
なんだかんだで、結構長い付き合いだしね。こういうときはちゃんと祝ってあげなきゃ。

そんな会話をしながらも、彼女は投げやりな私の為にしっかり商品を用意してくれていて、これはちゃんとした奥さんになるなぁとか思いながら見慣れた紙袋を受け取った。

「まあ子供が出来たら見せてね。」
「エグゼこそ、早いこと女の子にアタックしなよ〜!」
本当に、余計なお世話だ。少し呆れたので「はいはい」とか適当にあしらって手芸店を後にした。


それからリリアに買った物を渡しに行って、時間があったからベリーの話をすると、リリアは目を輝かせた。
ベリーが結婚することを自分のことのように喜んだり、リリアが私の彼女扱いされていることに恥じらいを見せたり、本当に面白い。これからは外の土産話をするのもいいかもしれないなと少し思った。

「じゃあ、お祝いにお人形あげてもいい?」
リリアは私が話し終わると、そう提案してきた。私は凄くリリアらしいと思ったから「いいんじゃない」と返した。
しかし、それはその後が問題だったのだ。
「やった!じゃあエグゼリアルはベリーの似顔絵描いて。」
「…似顔絵?」
咄嗟のことで聞き返すことしかできない。
予想がつくかもしれないが私は絵なんて描いたことがなかった訳で、人を描くなんて以ての外だった。

「だって、折角ならベリーの人形が良いでしょ?リリアはベリー、見たことないから、だからエグゼリアルしか分からないでしょ?だから、はい!」
全く悪意のない笑顔で紙とペンを差し出されるものだから、「それは無理だよ」という言葉さえ口から出てこなかった。

…少し我が儘を断る勇気を持った方がいいかもしれない…。
そう思いながらも、紙とペンを受け取ってしまった自分を、情けないな、と呆れることしかできなかった。
「じゃあ、ちょっと待っててくれる?」
せめてちゃんと練習してから描こう。こんなことでリリアに失望されたら私が辛い。
「うん。リリア、待ってるね。」
そうだ、こんなに可愛く笑われてしまって断れるはずないじゃないか。この子にとっては私が外の全てなんだから。

そう決心して、「そろそろ帰るよ」と言うと、少し寂しそうにはするが前ほどではない。
そしてまた玄関まで二人で向かって、手を振る。
リリアの「待ってるね」の声を聞いてから、私は扉を閉めた。ちゃんと鍵の閉まる音もしたし、大丈夫だ。

よし、今日から猛特訓だ。
私が紙とペンを持って花畑を駆け抜けると、花弁が何枚も空を舞った。


…とは言ったものの、あまり時間は無い。
手始めに一枚描いてみるとそれはもう、悲惨としか表現しようがない出来栄えだった。
本当に私は人間より優れた存在なんだろうかと自信を無くすレベルだ。

今まで時間に追われるなんてことが無かったから、出来ないことは後回しにするのが当然だった私にとって、短時間で何かを上達させるというのは結構辛いことだった。
人間は恋をすると変わる、と言うのを聞いたことがあるがそれは神も同じかもしれない。
誰かが言った、人間も神もそう変わりはないという言葉も案外当たっているな。

一体のドールと一人の人間の為にここまで頑張ってしまうと、他の神には呆れられてしまうかもしれない。
でも、そういう時間って、案外何よりも貴重な時間であるような気がする。

3日くらいだったかな、あんまり長引かせるとリリアが寂しい思いをするからと、その一心で本当にずっと絵を描いていた。
街で紙を買って、街の似顔絵師が暇そうなら教えて貰ったりもした。
忙しい、と言う気持ちはあまりに忙しすぎると消えるのだな、と言うことにも気付いたりしながら。

3日なんてただでさえ短いのに、この3日間だけはどんな3日間より特別に短かった。


「お待たせリリア!」
この日は玄関から入るのさえもどかしくて、リリアが作業している部屋の窓から飛び入ってしまった。
リリアもどこか抜けているので、驚くどころか嬉しそうに「おかえり」なんて笑いながら針を置いて立ち上がる。
「はい、あんまり上手く描けなかったけど」
3日で上達する度合いなんて高が知れている。そんな僅かな期間で上達すれば人間誰も苦労はしていない。

しかしリリアはううん、と首を横に振って私の目を見た。
「エグゼリアル、たくさん練習したんだよね?」
「あれ、バレた?」
「リリアが最初にあげた紙と大きさが違うしね、エグゼリアルの右手に、インクがたくさんついてるからね、何だかそんな気がしたんだよ。」
凄いなぁ、今の一瞬でそんな所まで見られたんだ。不思議だな、リリアの目には一体何が映ってるんだろう。
急いで来たからインクを洗うのも忘れたんだ。しかし想像以上に真っ黒…これすぐ取れるのかな。

「それでちゃんと人形作れる?」
「うん、大丈夫。ありがとうエグゼリアル。」
ああ、良かった。とにかく頼まれたことは出来たし、これで暫くはゆっくり出来るかな。

今度は、ベリーの驚く顔が楽しみだなぁ、なんて考えてしまう。

そして、きっとリリアも同じこと考えてるんだろうとそう思うだけで、また今回の疲れもどこかに行ってしまったような気がした。