ゴースト×ゴースト小説、奇跡のドール Ⅲ

わー!ゴメンなさーい!約束ギリギリの更新!
部活入ったらやること多くて寝てました(言い訳)
私頑張ってる(´・_・`) 更新遅れるかもしれないけどそれは許してね…
はい!エグゼはどんどんリリアを好きになってしまいますよ〜〜
では、いきましょー!



リリアの居る花畑に戻る頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。
あんなに強かった日射しも夜になれば収まって、少し冷たい風が吹く。

いくら神だとは言っても重い荷物を持つのは苦だ。
私が生み出すものは奇跡だけで、こう言うときに重いものが軽々持てるだとかそういうことじゃない。
仮にそんな力があったとしても、人間の前ではあまり乱用出来ないし。
人間の中で暮らすのなら、人間に紛れる努力をしなければいけないのだ。


「あ〜、疲れた…」
花の中に足を踏み入れる前に、濃く深い青色の空に向かってそう呟いた。

神の仲間達の下へも戻らないとなぁ、寂しかったなんてきっと言ってくれないけど。
言ってきたら逆に何か企んでいるんじゃないかと疑ってしまうかもしれない。
素直に受け取れるようにもならないとなぁ。根拠も無く疑われるのは気分の悪いことだから。

ふう、と一息つくと、私は足を進める。
夜に見る花、と言うのも、昼間とは違う良さがあるなぁ。
私はきっと無差別に花が好きなんだな。そうじゃなかったら初めからこんな所にやって来ても居ない。

木製の扉の前に立つと、何だかワクワクしてきてしまった。
リリアの笑う顔、見られるだろうか。

一人で少し気持ち悪いくらいにやけていると、手を掛けても居ないのに扉が音を立てた。
「おかえり、エグゼリアル!」
「ただいまー。」
危ない。ニヤニヤしてるの、見られるところだった。もしかしたら見られたかもしれないけど。
でもきっとリリアはそれがどういう意味か分からない筈だ。気にするな私。

「じゃーん!」
紙袋を提げていた腕を上げて見せるとリリアは「わあ」と声を上げて目を輝かせた。
この子の笑顔はどんな疲れも痛みも吹き飛ばしてしまいそうだな。
リリアの笑顔に見惚れていると、彼女は紙袋を提げていない方の腕を引いて嬉しそうにこう言う。
「リリアもね、エグゼリアルに見せたいものあるんだよ。早く早く!」
ドレスを踏みそうな勢いで廊下を走り、私の手を引くリリアを見ると、今までにないくらいの幸せを感じる。

ああ、リリアとの時間が永遠ならいいのに。

リリアが手を引く先には、彼女が作業している部屋があった。
布切れや糸くずが床に散らばっているのを見て、彼女が如何に熱中しているかが分かる。
そんな中、リリアは部屋の中をパタパタと走り回ってあるものを持って背中に回した。
「なに隠したの?」
「気になる?」
リリアは私に顔を目いっぱい近付けて首を傾げてそう聞いてきた。私が素直に「気になる」と答えると、うふふ、と嬉しそうに笑って言った。
「じゃーん!そっくりでしょ?」
私の真似をする姿を愛おしく感じながら彼女の手元を見つめれば、そこにはひとつの人形が握られていた。
どうやら、私を模った人形のようだ。
リリアは人形の手を動かしたりしながら私の反応を伺っていた。
「凄いね、リリアは本当に器用だ!」
感じたままに、そう言葉にすると、リリアは頬を赤くして両手を広げた。
そしてそのまま、私の方に体を倒して来る。

それだけで、退屈で今まで止まっていたような鼓動が急に早まった。
ドキリと弾んで、顔が燃えるように熱くて、頭が真っ白になるような感覚に襲われる。
「リリア…?」
「リリア、エグゼリアルに褒められるとね、すっごくドキドキするの!」
それは自分も同じだ。きっかけは違うけど。
「エグゼリアルが命をくれてから、リリア、何回も心臓がドキドキするよ。」
「…私も君に命を与えてから、何回も心臓がドキドキするような気がするよ…」
そう小さく言ってみると、リリアは体を離してまた嬉しそうに笑って、
「一緒だね!」
と、そう言った。さっきから心臓がうるさいからそろそろ鎮めたいんだけど…。

妙に長く感じた時間は、実際どれ位経っていたのかさっぱり分からない程だった。
こういう時は別の話題に切り替えるのが一番だ。
「で、リリア、たくさんあるから見てみなよ。」
そう言って私は、結局手に提げたままだった紙袋をリリアの前に下ろした。

そうすると二人でその場に腰を下ろして、布を広げてみたりする。
これが気に入ったとか、これは凄く可愛いとか、一枚一枚を見ては率直な感想を述べるリリア。
こんな何気ない一瞬一瞬に、私は惚れてしまっているんだなぁと苦笑した。

「お花の柄がいっぱいあるんだね。」
ああ、絶対に言われると思ってたけど…まあ、だよね。
「リリアにどんなのが良いか聞くの、忘れて行っちゃったからさ。その、…リリアには、花が似合ったから。」
そんな口説き文句のような言葉を吐いてしまって、内心とても焦った。
動揺して変なことを口走るのは人間も神もそう変わらないんだなぁと、俯いた。

しかし、当の本人はどうやら気に留めても居ないようで、
「エグゼリアル顔赤いね。リリアと一緒。」
なんて、呑気なことを言う。まあ、リリアはこうでなくちゃね。
でも、リリアもその後、布の感想を言う訳でもなく、言葉を続けた。
「でも、リリア、お花大好きだからエグゼリアル大当たりだよ。だって、お花畑は、リリアとエグゼリアルが初めて出会った場所だもんね。」
だから、そう言うことを軽々言ったらダメだよ…。
そうやって、同じ思い出を何度も刻み付けると忘れられなくなってしまう。
きっとこれから何千、何万年と生きて、鼓動が早まる度に君のことを思い出すんだろうな。

「…あのねリリア、大事な話、してもいいかな。」
言って置かないと、いけないよね。暫くしたら此処を去ろうかとも思ったけど、そんなこと出来そうにないから。
「大事な話?」
私のその一言で、リリアは手を止めて私の目をじっと見た。
その綺麗な瞳には一切の嘘がつけないから、ちゃんと言うよ、私のこと。

「そう。リリアは人間がいつか死んでしまうこと知ってる?」
「…うん。」
「…でも、私は違うんだ。人間じゃないから。」

「知ってるよ、エグゼリアルは神様でしょ?」

え、と思わず声を上げてしまった。予想外の回答だった。あれ、私、このこと喋ったっけ…?
と、困惑していたら、リリアはうふふ、と笑って、続けた。
「だって、リリアに命をくれた。命をくれるのは神様でしょ?だから、エグゼリアルは神様なんだな、って思ったの。」
…そういうことか。本当に心が綺麗で素直じゃないと出来ない考え方だなぁと改めて思う。
この子は凄い子だ。できればずっと穢れを受けずに生きてほしい。

「…そっか、じゃあ…大事な話はもう無いよ。」
そう言うと、リリアは「それにね」と私の手を取った。
「神様と人形って、立場は違うけど、リリア達こんなに近くに居るよ。だから関係ないよ。エグゼリアルが神様でも、リリアはエグゼリアルのこと大好きだもん。」

ね、とリリアが、そう笑う度、可愛いなぁと口にしそうになる。
大好き、ね…。悪気は無いんだろうけど、その言葉を聞く度、妙に恥ずかしくなるよ。

つい此処にずっと居たくなってしまうのを堪えて、私は立ち上がった。
「さあ、リリア。私はそろそろ帰らないと。」
「もう帰っちゃうの?リリア寂しい…」
急に笑顔を消してそう言うものだから、なんだか悪いことをした気分になって気まずくなる。

こんな顔されたら帰れないなぁ…。こっちまで寂しくなるというものだ。
どうにかして彼女を笑わせて上げられないかなぁ…。
私は周りを見渡して、あるものを見つけた。

良いものがあるじゃないか。

「寂しくなんてないよ。私はいつでも側に居るじゃない、ほら。」
私はリリアの隣に大事そうに置かれていた自分そっくりの人形を手にとって、リリアの顔に近付けた。

そうすると初めは驚いていたリリアも徐々に笑顔になって、「うん」と頷いてくれた。
ああ、良かった。これからずっと別れ際にあんな顔されちゃ困るからね。

「またすぐ来るから、大丈夫だよ。」
玄関に出ても、扉を閉めるギリギリまでくっつかれたものだから少し焦った。
「絶対だよ?リリア待ってるからね!」
そんな、永遠の別れみたいに言わなくてもいいのに。そういうところも私は好きだけど。
「絶対来るから、じゃあね。あ、鍵しっかり閉めるんだよ。」
私が扉の隙間から手を振ると、リリアは今にも泣きそうな顔で手を振り返してきた。
これ私毎回やるのかな…。


そんなことをぼんやり考えながら、なんとなく、また夜空を見上げた。
頬を撫でる生温いはずの風が冷たく感じるくらい、私の顔は火照っているようだ。
誰かとの別れをこんなにも惜しく感じたのは初めてだなぁ。何だか新鮮だ。
リリアは私に今まで感じたことの無い気持ちを呼び覚ましてくれるようで、一緒に居るのがこんなにも楽しい。

目の前に広がる花畑は、また今日も風に揺れている。
思えばたった数日をこんなにも長く感じたことさえ初めてで、リリアに魔法でも掛けられている気分になってしまう。

これは確かに、一生忘れられない記憶になりそうだなぁ。

さて、これからはあの手芸店にもまた顔を出さなければいけないし、リリアの所にもある程度帰ってきてあげないとな。
これは今までに無いくらい忙しくなりそうだ。

私は何だか変に足取り軽く、花の道を渡っていってしまった。