ゴースト×ゴースト小説、奇跡のドール Ⅱ

こんにちはー!これで二回目の更新ですね
まだ全部書けてませんが多分テンポ良く書いていけると思いまーす!
さて前回はエグゼリアルが人形の少女リリアと出会ったわけですが、今回も新しいキャラが出てきますよ〜
リリアがエグゼリアルにした頼み事とは一体なんなんでしょう?
答えは小説の中!ではどうぞー!



あの後、神として世界を眺めたり色々したが何度もリリアの下へと戻って来てしまった。
リリアは花畑のすぐ側に建つ立派な家に住むようになった。
煉瓦で造られたその家はついこの前まで人が住んでいたようだったが、単に留守という訳では無さそうだったので、彼女にそこで住むように言ったのだ。

勿論、不思議ではあった。
煉瓦の壁に空いた窓には汚れも微かな白いカーテン。二人で掃除をすれば高そうな宝石や年期の入った家具なども出てきた。
リリアは気にする様子もなく「素敵」などと喜んでいた訳だが。

しかし、暫くは考えても仕方なかったため、彼女には何も言わなかった。
リリアも此処を気に入ったようで離れることも無かったので、その点少し安心していた。

まあ、これも奇跡か。そんな風に、いつも通り片付けた訳だ。


そして、私が数日振りにこの家に来た時の話だ。
リリアはどうも器用なようで、人形を作っていた。
扉を開けた時は妙に嬉しそうに駆け寄って来て、聞いて聞いてと言ってきたものだ。

退屈だった為に引き出しを手当たり次第に開けて何か面白いものを探していたのだと言う。
布やら針やらを見つけ出して今に至ると、そういう話である。

「どうして、人形のあなたが人形を?」
少し可笑しかったものだから、そう何気なく聞いてみたが、彼女は頬を少し赤らめて答えた。
「リリア、リリアを大事にしてくれたあの子の事、大好きなの。だからね、たくさんの人形に、リリアとおんなじ気持ちを持ってほしいの。」
器用に糸を通す指を止めて、リリアは作った人形を見つめて続けた。
「エグゼリアルがリリアに命をくれた時も、リリア凄く嬉しかった。そういう暖かい気持ち、たくさんたくさん生まれてほしいから、リリア、人形作りたいって思ったんだよ。」
…そうか、と単純に思った。
リリアは悲しみとか、そういう気持ちを知らない分、そう思うのだろう。
悲しい思いをさせたくない、なんてそんなことは思わないんだ。
ただ、素敵で、素晴らしい経験をするモノを増やしてあげたいと思っている。
…なんて、未熟で美しいことだろう。

「すごく、優しいんだね。リリアは。」
ただ、そう笑ってあげることしか出来なかった。
リリアの優しさや幼さに触れると、自分の汚く醜い感情が一つずつ消えていくようだった。

「だからね、エグゼリアル、リリアもっともっと材料ほしいな。」
「…私?」
他人にいいように扱われるのは慣れているが、こういう悪意の無いのには流石に動揺する。

「リリア、ここから出るのがね、なんだか少し怖いから…。だからエグゼリアル、街にはたくさん良いものがあるんでしょ?」
怖い、か…。
何故かと思ったがそれよりもどうやってそんなことを覚えたのかと思えば、彼女の側の机を見れば分かった。
「…分かったよ、楽しみにしていて。」
絵本だ。家中探し回った分知識も増えたか。
表紙を見るだけで、街が随分立派に描かれていることが伺える。

彼女の純粋な望みを私が傷付けるのは良くないだろう。
リリアには、笑顔がよく似合う。それを奪いたくはない。

私は暫くリリアの話し相手になってから、街へと向かうことにした。


花畑を抜け、土の上を暫く進むと、やがて石造りの道に変わった。
人々のざわめきが聞こえるようになったので、恐らく町だろうと思う。
しかし、やはり私が飴を貰った場所とは別のようだった。少し残念だが、そんな偶然は普通は余り起こらないものだ。
奇跡でも起こさない限りは。

ああ、でも、人形の材料というのは購入しなければいけないのか。
上手く言い包めて奪うことも出来るけど…まあ問題を起こすのはよくないな。

「…どうしよう」
折角ならリリアの家からあの高く売れそうな宝石を持ってくるんだった。
暫くどうしようか悩みながら歩いていたが、そうしている内に街の入り口に辿り着いてしまった。
「どうにかしてお金、手に入らないかな…」

そう呟くのと、ほぼ同時。

「おめでとう、兄ちゃん!」
そんな声がするので、少し驚いたが声の方に顔を向けた。
「私?」
「そう!あんたが今年この街に来た10万人目だよ。」
「へえ、それ凄いね。」
「はい、これ景品。」
片手で差し出された少し汚れた袋は少し重そうで、何かのドッキリではないかと疑った。
まあいいか。これがもしドッキリでも、その後に倍くらいのドッキリを仕掛けてやればいいんだから。

その袋を受け取ると、本当に結構重かった。
中身を見る前に街や人々の反応を見てみたが、こちらを多くの人々が影の無い笑顔で見ていて不思議だった。
まあ、悪いものでは無さそうなので袋の口を広げてみる。

…あ、奇跡だ。

少し驚いたから咄嗟に袋の口を閉めてしまったが、街の人々はそれを見て満足げに笑っていた。
「え、こんなに貰って良いの?」
その袋に入っていたのは、今は物凄く欲しかった金貨だった。
確か金貨って人間にとっては物凄く貴重で、世の中の均衡を保つために必要不可欠なものではなかったっけ。
「毎年募金でやってんだよ、あんたみたいなはじめて来るような慣れない子に当たると面白いんでね。」
ああ、きっと良い人たちなんだろうな。リリアにも、こう言う人達の姿を見せてあげたかった。
「本当に助かったよ、お金を忘れて困ってたんだ。」
そういって笑って見せると、周囲の人々も笑って「良かったね」と笑った。

その後、周辺に居た人達に会釈をしながら入り口を抜けた。
なんて素晴らしいことだろう。こういうことはリリアに話してあげなくちゃ。

単純な嬉しいという気持ちを抱えながら賑やかな市場を歩くと、こうも世界が輝いて見えるのか。
リリアに出会ってから、この世界が益々好きになったな。

そんなことを考えながら歩みを進めていると、手芸用品が並ぶ店が目に入った。
そういえばどんな柄が良いとかは聞いて来なかったなあ、またうっかりしていた。

店に入ると、色や柄の様々な布や、太さの違う糸があった。
こんな場所に来たのは当然初めてでなんだかよく分からなかったから、改めて好きな色でも聞いてくるんだったと後悔してしまう。

私が唸りながら悩んでいると店員らしい少女が話し掛けてきた。
「何かお探し?」
短く切り揃えた淡い茶色の髪から明るい印象を受ける少女だ。
「あー…、人形作りが好きな子が居るから、材料のおつかいに来たんだよ。」
「へ〜、彼女ですか?」
「あのねぇ…」
随分、客と話すのに慣れている様子だった。とは言え、いきなり他人のプライベートに突っ込むのはどうかと思うが。

だが彼女はほんの悪戯心だったようで、答えを聞くわけでもなく笑って商品に手をかけた。
「その方のお好きな色は?」
「それを聞いてくるのを忘れたんだよ、だから困ってた所。」
案の定、そこから聞かれるんだなぁと自分が情けなくなった。

やっぱり後日に改めるべきかとそう思ったが、リリアの残念そうにする顔を思い浮かべると出来ないなと思う。
きっと今も楽しみにしていることだろう。

「おいくら位で収めたいとかあります?」
「これ以内で。」
さっき受け取ったばかりの袋の中身を見せると少女は「わ〜」と声を上げて驚いた。
「お金持ち!」
「いや、さっき10万人目記念で貰ったんです。今日はついてる。」
「ああ〜、それを彼女の為に全部…」
「だから…」
やはり彼女だという風に納得されてしまっていたようだ。
私としては大して嫌では無いが、リリアの気持ちがどうかと考えると微妙だ。
多分リリアに言っても彼女がどういうものかから説明しなければならないが。

「じゃあじゃあ、折角ならいっぱいプレゼントしましょうよ!」
少女はどこか嬉しそうにそう言って腕捲りをした。
まあ、たくさんお金を落としていって欲しいというのもあるんだろうけど、今はそんな気持ちは捨てよう。

「何か知らないんですか?その方が好きなこととか、物とか…」
リリアが好きなことか…人形作りしか浮かんで来ないけど、そう言うことじゃないもんなぁ。

「絵本…とか」
「絵本も作るんですか?」
「いや、読む方。」
そう言うと、少女は不思議そうな顔をした。
それもそうか。人形が作れるほど器用なのに絵本を読むなんて、年齢の察しがつかないか。

まあ、そんなことより、リリアの好きな物だ。
と言っても彼女と出会ってまだ数日だしなぁ。それに毎日会っている訳じゃない。

でも、ああ、そうだな。リリアには花が良く似合う。
綺麗なリリアには、綺麗な花が、とてもよく似合っていた。
「……花、とか?」
私がそう提案すると、少女は茶髪を揺らして、「それ!」と拳を握った。

「花柄ってとっても可愛いですよね、人形にもよく似合います!」
私が一言「花」と言っただけで、少女は忙しそうに店内を走り回る。
元気だなぁ、とか思いながらそれを見ていると、少女はどんどんテーブルに布や飾りを持ってきた。
気が利くようで、綿などまでしっかり持ってきてくれて。

暫く待っていると、これだけあれば大分長い間リリアが暇しないような量の布やら何やらが積まれた。

「へえ…これでいくら?」
「計算してないですよー、この中からあなたが選ぶんじゃないですか。」
あぁ、そういうものか。これ片付けるの大変そうだなぁ、とか思いながら私はその手芸用品の山を眺めた。

「…いや、いいです。これ全部くれる?」
「え、嘘!」
「だって、これ片付けるの大変でしょう。それに選ぶのは私じゃなくてリリアだから。」
「…太っ腹〜…」

その後少女は笑顔で計算して金額を出してくれたが、高いのか安いのかよく分からなかったので金貨の袋の中から少女にその金額分差し引いてもらった。
まあ多少多めに持っていかれたかもしれないが、別に後で困るかと言ったらそうじゃないので何も言わなかった。

一つずつ畳んで紙袋に詰めていくと、思っていた程大量では無かったので、持ち帰るのも思いの外楽そうだった。

「多分また来るからよろしくね。」
「えー!そんなに買ったのに?」
少女の反応からして、ここまで買って帰る客は珍しいのだろう。
まあ、その方がこの子の記憶に残っていいか。
「入荷、しっかり頼むね。あと次会うときは無理に敬語じゃなくていいよ。」
そう言い残してその手芸店の扉を開けた。
ああいう子には人を敬うような言葉より同じ目線に立って使うような言葉の方が似合う。

「はーい、毎度ありー!」

少女の出会ってから一番の明るい声が、なんだか少し耳に残った。