ゴースト×ゴースト小説、奇跡のドール Ⅰ

はーい!こんにちは!てかこんばんは!朱音です。
シリーズ、ある程度書けてきたので更新始めたいと思いますー!
トラブルが無ければ1〜3日おきぐらいに更新していきますね
詳しいことはこの前のシリーズについての記事を見てね〜
今日の話は出会い。エグゼが出会う運命の相手とは一体どんな子なのか…
読んでくれる人は読んでってくれー!では、どーぞ!



私は、神だ。奇跡ノ神。
世界は不思議なことや、不可解なことが溢れていたり、溢れていなかったりする。

私は、そんな世界が大好きだ。

私はこの世界の、頂点と呼ばれる者だが、いまいち頂点らしいことをしていない。

仲間は居ても、別に大したことを話す訳でもない。
普通に遊んだりとかもするし、案外私達って人間と変わらないのかも。

この前下界に降りた時に貰った飴と言うお菓子はこんなにも美味しくて、甘い。
人間は当然のようにこんな美味しいものが食べられて羨ましい。
私達は食べなくたって生きていけてしまうから、食と言う文化はとても珍しく映る。

しかし人間には寿命があって、生死の概念が存在する。
時に生に感動し、死に怯える。
生きる者はみんなそうだ。時間に限りがある。

だから、人間と親しくなると、あまりに別れが早くて、心が痛んでしまう。

その為、私はあまり顔や名前は覚えない。元々忘れっぽい方ではあるけど。

さて、今日は何をしようか。
この飴はとても美味しいし、折角だからお礼に奇跡でも起こしに行こうかな。

そう思い立ち上がって下界を見下ろす。
どの辺りで貰ったんだっけ。早速忘れてしまった。
よく考えれば誰に貰ったのかもよく覚えていない。

んー、やってしまった。
やはり忘れっぽいのも考えものだな。
本当に、これでは神を語る資格も無いというものだ。

でも仕方ない、諦めよう。今日は別の面白そうな何かを探すんだ。
折角これから何年も生きるのだから、何年も心に残るような経験がしたいなぁ。
いい思い出として、永遠に刻まれるような記憶…。

そんなことを考えていると、美しい光景が目に入った。
…あれは花、か。幾つもの種類があって、何色もの花弁が空を舞う。

あんなにたくさんの花を見るのは初めてだし、是非近くで見てみたいものだ。

目の前に広がる無数の花の景色を想像している内に、自然と足は動き出していた。

遠くから見るだけで全ての物事を決めつけるのは良くない。近くでじっくりと見ることも時には必要だ。
しかし近くで見ただけで判断するのも良くない。遠くから見つめることも大切な時はある。

この世の中はどうも加減が難しい。私は神だけど、その手のことは器用に扱えない。
まだまだ勉強することは多そうだ。


「おお…」
感嘆の声が出るのはいつ振りだろう。
今日は天気がいいし、花もご機嫌のようだ。
甘い匂いが鼻を擽って、どうにもいい気分になってしまう。
こう言う時だ、生命を生み出して良かったと思うのは。

風が吹く度、花はゆらゆらと揺れて、微かな音を立てる。

ああ、心地良い。やはり下界には素晴らしいモノがたくさんあるな。

ついつい気分が良くなって、花を掻き分けるように、踏まないように奥へ奥へと歩いていく。

そうすると密を吸っていた蝶達がひらひら舞って、美しさが増す。
意識しなくても、笑顔になってしまうなぁ。

広く広く続く花畑の中心辺りに来たかと言う程で、やっと足を止めた。
想像以上に日射しが強い。でも神だから、帽子とか、なにか被ってもあんまり意味無いんだけど、人間に溶け混むには持ってきた方が良かったかな。

そんなことを考えながら、花の上に大の字に転がった。
空は透き通るように青くて、心が洗われるようだった。

そして、手を思いっきり伸ばすと、何かに当たる感覚があった。
花しかないと思っていたから不思議に思ってそちらを見ると、私は目を疑った。

胸の前で細い指を組んで、少女が眠っていたのだ。
白い肌が太陽に照らされて、尚更白く見える。柔らかそうな金髪はカールしていて、花の上に長く敷かれていた。
ドレスのような服は彼女の美しさを引き立てるのには十分だった。

「…これって…奇跡?」
寝転んだばかりの体を早速起こして、誰に問う訳でもなくそう呟いてみた。

何度目を擦っても、少女はそこに居る。

…綺麗だなぁ…。

なんだか少し顔が熱くなるような感覚があって、自分でも驚いた。
首を左右に強く振って、そんな意識を断とうとしたが、それも難しい話だった。

暫く多少の気まずさを感じながら少女の顔を見つめていると、遂に彼女の瞳が動く。
妙にドキッとしてしまって、それが声に出そうになるのをなんとか抑え、口を強く結んだ。

ゆっくりと開くエメラルドのような瞳を見ると、自分の緑の瞳は酷く濁った色のような気がしてしまう。

少女はそのまま体を起こして、ひとつ欠伸をすると、迷うことなく私に視線を向けた。

「あなたがリリアに命をくれたの?」

…やっぱり、どうやら奇跡だったようだ。
あの時、思い出作りを望んだからだろうか。
「まあ、多分…?」
このリリアと言う子は自分に命が無いことを知っていたのか。
どういう意味だか分からないが、そういうのは聞いてみるのが一番だ。

「あなたは、どうして此処に?」
「それより先に、リリア、あなたの名前が知りたいな。」
興味や希望に輝く瞳が、強く刺さる。突然に生命を授かると、誰もこうなるのだろうか。

「エグゼリアル、だよ。あなたは…リリア?」
そう聞き返すだけで、リリアは笑顔になって嬉しそうに応えた。
「うん。じゃあお話しよう、エグゼリアル。」
あ、エグゼでいいと言い忘れた。これも新鮮でいいけど。
私が「いいよ」と返すと、リリアは空を仰いで楽しそうに話し出した。
それを見るだけで、私まで楽しい気分になる。

「リリアね、此処に一人、寂しかったんだよ。」
「一人…どうして?」
「リリア、お人形だよ。大切にしてくれてたのに、此処に置いて行かれちゃったの。」
人形…そう来たか。成る程、よく見ると確かに派手なドレスは人形らしいなぁと思う。
それで私が永遠に心に残るような経験を望んだからこの子に魂が宿ったと言う訳だ。
ああ、また誰かさんに怒られそうな話だ。
「でもビックリ!リリア、動けるようになったんだね。」
まあ、この子が楽しそうにしているんだからいいか。私が何回怒られても、この子が悲しむ訳じゃないし。

「嬉しい?」
「うん、とっても嬉しい!リリア、エグゼリアルにありがとう言わなくちゃ。」
ありがとう、と頭を下げられて、少し照れ臭い気分になる。
こんなに素直な子はなかなか居ない。きっとリリアの人形を所持していた子というのが、とてもいい子だったのだろう。
親を見て子が育つのと同じことだ。しかしそんな子がこんな所に置いて行ってしまうと言うのは…、うっかりしていたのだろうか。
まあうっかりして忘れるのは私とて同じこと。その子ばかり責めるのもよくない。

「とても綺麗なお花だね。リリア、感動しちゃう。」
急に立ち上がったと思ったら、両手を広げて嬉しそうにリリアは走り出す。
その度に花弁は宙を舞って、彼女を更に輝かせた。
こんなことを言うのは女を誘う時の男くらいだが、本当に、唯、今は、花よりもリリアの方が綺麗だ。

空の青と、色とりどりの花、そして、リリア。

風を受けて髪やドレスが踊る度、自分自身の鼓動が高鳴るのを感じた。
…これが人間の言う、恋か。そして、一目惚れとも言うアレだ。

「…あは」
初めて愛する者が、神でも人間でもなく、人形とは…。
本当に世界は不可解なものだな。自分という存在ほど不思議なものは無い。

「…転ぶよ、リリア。」
奇跡を振り回して、撒き散らしてしまう自分には、人間に恋する資格もないのかもしれない。
そもそも、神という立場では、下界に降りる資格さえ…。

「あ…」
早速足を滑らせた少女が声を上げるから、私は指を一度、振る。
「危ないから、ちゃんと見なきゃ。」
風がふわりとリリアの体を支えて、その後少女はしっかりと両足で大地を踏む。
立ち上がってその手を取ると、彼女は始めて困ったような笑顔を見せて「うん」と、そう言った。

しかし、神は反省もしない悪い生き物で。
少なくとも私は、奇跡の加減を間違って怒られても、反省したことはない。

…もしこの出会いで運命が狂っても、私が反省することはないだろう。

とある花畑に、今日何度目かの風が吹いた。