ゴースト×ゴースト小説、全ての謎は城の中

まだこの城には来たばかりだがすぐにスタート地点まで戻って来てしまった。
「確かに、庭って言っても見えるものは何も無いね。」
デヴィーセが聳える門の向こうを見渡してうんざりしたように言った。
どこまでも遠くへと広がる緑が風に煽られ揺れている。

ファルシードを永遠にこの中に閉じ込めておく気なのか?」
「でもそうやったら、ウチらはなんで入れてもらえたん?」
疑問はこれでもかと言うほど次々浮かんでくるのに、答えの方はヒントさえも見つからない。
こんなにも風は自由なのに。
どこかから出られない、というのはこんなに息苦しいのか。
「彼にとっては狭い世界じゃないんだろうね。」
デヴィーセが急にそう零した。彼というのは邪神のことだろう。
「この門も高くなんてない、ウォリスだって怖くないんだよきっと。ファルシードは普通を知らないし、きっと今よりずっと昔も普通じゃなかったんだ。」
門の格子の間から手を伸ばしてどこか懐かしそうにデヴィーセは続ける。
「でもその方が楽しいのかもね。誰かのために生きるほうがよっぽど目標があっていいよ。…だって、なんで僕たちなの?神なんて…。」
その言葉にカルルが食い付く。
「神ってそんなにイヤな存在なん?」
「…そりゃそうさ。人間に寄って集って信仰されるなんて…そんな偉くない。」

「ニンゲン、…って何?」

デヴィーセが、出会って一番の驚いた表情を見せた。振り返って、その瞳は大きく丸い。
イングリーネも耳を疑ったが、本当は転生しているはずなのだから記憶がないのが普通だ。なんとか表情を変えずに、「俺も知らん、なんだそれは。」とうまいこと誤魔化した。
うっそ…、と声を漏らすデヴィーセを見て単純に可哀想だと思った。生き物は誰でも、少数の方を常識外れだと言う。それが例え三人でも疎外感は拭えないものだ。

そうか、そもそも人間だったと言う過去がなければこの世界を何かと比べることもない。自分が神である事が普通で、城が聳えるような世界が普通なのだ。
ファルシードからこんなことを学ぶとは…とイングリーネは少し彼に感謝した。
それならこっちも考えなきゃいけない。卑怯な手を使わなければこの神の世では生きていけないだろう。
あの島で生きていた過去は無かったことにしよう。島、というものを俺は知らない。今、目の前に広がる世界しか知らないのだ、と。

「そんなことはどうでもいい。まずこれからどうするかを考えろ。」
人間についての話は避けよう。ボロが出そうでひやひやする。
「そ、そうだね。どうしよう…門の外へ出られるかな?」
デヴィーセはそう言ったがイングリーネは高い門とその先の道を見て溜息混じりに応えた。
「無理だろう。ウォリスの支配下だってことを忘れるな。それに出られたとしてどうするんだ、こんな草しかなきゃどれだけ歩いてどこへ着くかもわからん。」
暫くの沈黙。
思い切ったことをしてみよう、とは言えど死の恐怖は拭いきれない。
言ってしまえばウォリスの城、という支配下に居る時点でウォリスは自分達をどのタイミングでも殺すことは可能だろう。
例え悪事を働かなくとも、飽きたらあっさり捨てられるかもしれない。
全く最高のスリルだと思うよ。

「あ!何か調べることがあるんやったらやっぱり資料館みたいな所に行かなきゃ!!」
カルルが人差し指を立てていきなり大きな声を上げた。
「声がでかい」
イングリーネが呆れたように言うが、カルルは立てた指を振って「ちっちっち」と合わないことをして言った。
「イーくん、後ろを見て?」
ぼーっと外を見ていたデヴィーセもやっと振り向いてカルルの言いたいことを理解した。
「カルル、やるじゃん。」
「単純なのに気付かなかったな。」
外に行くことだけがすべてじゃなかった。支配下に居ることを目いっぱい利用させてもらおうじゃないか。

「さあ、謎を解明しよう!!」