ゴースト×ゴースト小説、悪魔の棲む城

「僕初めてなんだー!ウォリス以外と遊ぶのー!」
邪神ファルシード、と言う彼は長い廊下をイングリーネの手を引き、歩き続けていた。
「おい、この廊下長すぎないか。いつまで経っても明かりが見えん。」
イングリーネは気が短いので(良く耐えた方だが)歩き続けた末にファルシードにそう尋ねた。
少年は赤い瞳を丸くして振り返ると、ニッコリ笑う。
「長い?当たり前じゃない。だってこの廊下には終わりが無いんだよ。ウォリスは僕を外に出さない為に、廊下を創りつづけるから。僕は永遠に外の世界には出られない。この城の門の外へは、出られない。この城は僕の為に永遠に創られるからね。」
思わず、足が止まる。イングリーネはただ驚いてはじめ言葉が出なかった。
子供と言うのは外に出て騒ぐものだと思っていた。バカみたいに走り回って、疲れたら眠るものだと、ずっとそう思っていた。
この中に居ては、籠の中の鳥と同じだ。外を知らずに一体何ができると言うのだろう。
「お前はそれでいいのか。」
「え?悪いことなの?」
そう言われると言葉が詰まる。こいつは外の世界を知らないんだ、とそう思った。
どうにかこいつを外に連れ出せないだろうか。
創造神を欺くと言うことになるが、できないだろうか…。
「…行ってみたいとか、思ったことねえの?」
ファルシードは斜め上を見上げて少し考えた様子だった。すると少し笑って、また幸せそうに言った。
「ウォリスが一緒なら!行ってみたいな。でも、ウォリスが外に出してくれないなら城の中でいいよ。城の中にずっと居れば、ウォリスともずっと一緒に居られるでしょ?」
だからOK!と一切影の無い笑顔で言ってきた。ここまでウォリスに執着されると水を差すようで外に連れ出すのも申し訳なくなる。
もし、そのウォリスがこいつを突き放したらどうするんだろう。
なにかのきっかけで、例えば俺が無断で外に連れ出して、それがウォリスを怒らせたなら。俺だけじゃなく、こいつも悪いと言われてしまったら…。
ファルシードは死に物狂いで謝るのだろうか。
執着する、というのはそういうところが怖い。俺はあまり人を信用しきるとかはしないが…。
(…ライカ、俺が死んで大丈夫だったかな)
妹は割と俺に執着していたと思う。俺に駄々をこねれば大体のことは解決すると思っていたようだし、外へ出れば大抵俺の自慢をしていた。
そういうところはやっぱりこいつに似てたのかな、なんて思ってしまう。
「ねえねえ、そんなことはどうでもいいからウォリスのところに行こうよー!」
ファルシードがそう言って手を引けば、すぐに廊下はウォリスが居るであろう部屋に繋がった。
ウォリスが廊下を創っているというなら、そいつはファルシードの行動や言動を全て把握しているということなのだろう。

「ウォリスー!ただいまー!!」
「あ…」
その扉の向こうにはカルルもデヴィーセも居て、ウォリスはその奥に居た。
「おかえりなさい、ファルシード。…外には行かなかったでしょうね。」
振り返ったウォリスの瞳はイングリーネを見ていた。それは、外に連れ出すなと訴えてくるようでもあって。
イングリーネは酷く不機嫌になった。
「行ってないよー、ウォリスとの約束だもんねー!」
そう嬉しそうに言うファルシードを見て、カルルもデヴィーセも違和感を持ったようでイングリーネと視線を交わした。
デヴィーセはもう用が済んだようで、イングリーネ達が来たすぐだが部屋を出て行った。カルルも急いでそれに着いていく。
イングリーネも気分が悪かったのでファルシードに「じゃあな」とだけ言って出て行った。

ファルシードの明るく無邪気な声が今だけは、狂気に感じた。