ゴースト×ゴースト小説、愛し、愛されること。

仕方ないので勝手に中に入ろうとしたとき、先程の黒い少年が姿を見せた。
瞳だけが紅く際立っているのは微妙に気味が悪かったがそこにはあえて触れないことにした。
「ウォリスが入っていいって、そういってたよ。」
なんだか緊張した様子で彼はそう言った。
デヴィーセはさっきと同じ笑顔で「ありがとう」と言う。
「違う、ウォリスがそういったの。ありがとうはウォリスに言うんだよ。」
なんだか幼子を相手しているようでカルルは苦笑いを浮かべた。
「なんか調子狂うなあ。」
でもイングリーネは首をかしげて、
「あのくらいの奴ってみんなそうだろ?」
と、自然にそう思っていた。
「そうなん?イーくんって、意外にお世話得意?」
「勝手なこと言うな。なんで好き好んであんな面倒くさいこと…。」
人間だったころ住んでいた場所では自分はちょっと年上で、いくつか下の妹くらいの年頃の子達が何人も居た。
大人たちは忙しかったし、世話をすることは多かったのかもしれない。
そんなことを考えていたら幼さの残る少年はもう扉の中に戻っていた。
「じゃあ早速行こうか、まずウォリスだっけ?に会いに行かなきゃだしね。」
デヴィーセがそう言うとなんにも考えずに扉を開けて中へと消えていった。
それを見てカルルは追いかけるように走る。
「すごい自由やなあ、とりあえず行かんと迷子になりそうやし着いて行こうよ。」
わざわざ後ろを向いて誘ってくるカルルだが、着いて来ることは確認せずに中に入っていったのでイングリーネはゆっくりと歩いていった。

まっすぐに広い廊下があって二人はそこを進んでいたが、横に目を向けるとさっきの少年が別方向に歩いているのが見えた。
自分より年下に見える者は放っておけなくて、その少年の方へ向かって歩いた。
その廊下はデヴィーセたちが進んだ廊下とは違って少し薄暗かった。
「あれ、ウォリスのところに行くんだったら向こうだよ。」
その紅い瞳で振り向いてイングリーネの後ろを指差した。
「知っている。なんでお前はこんな暗いところに居るんだ?」
そうやって聞いてみると少年は左上を見てうーんと考え出した。
「僕が居ると暗くなるんじゃない?僕にはここが暗くは見えないし、向こうを明るいと思ったこともない。」
首を横に振りながら彼がそういって、その後足元を見る。
「多分これのせいじゃない?でも僕嫌いなんだ…この黒いの。気持ち悪いんだもん。」
イングリーネも視線を落とすと、確かに誰かが好むようなものではないと思えた。
だがそれとは別に、少年を飲み込もうとしているようにも見えた。
「それって邪神だから…そうなるのか?」
でも自分が雷神だからなにかが漂っているとかそういうことはないし、彼は特別なのか、なんなのか。
「分かんないよそんなの。ウォリスも詳しくは教えてくれないもん。」
少し不機嫌そうに、ぶつけるように、彼は言う。だがその後にすごく楽しそうに笑って、
「ねえねえそんなことよりさあ!僕と遊ばない?楽しいことしようよ!」
すぐに人懐っこくイングリーネの周りをぐるぐると走り出した。
「まあ…いいけど。」
似てる。前まで一緒の島で暮らしていた子供たちと、とても似てる。
喜ぶ少年と重ね合わせて、もうその子供たちはきっといないんだと寂しく思う。

それでも今は神として、神と戯れてみることにした。