ゴースト×ゴースト小説、紅き罪人

「紅い宝石…」
フロウはそう呟いた。
どうしてか、その言葉が浮かぶと苦しくなってしまう。
「それがどうかしたんですか?」
フロウの顔を覗き込んで、彼女はそう問う。
心配そうに見つめられては隠し通すわけにもいかず、言葉を捜した。
「…いや、なんか、それを誰かから奪わなきゃいけないんだ。でも、それがどうしてか分からない。」
どうしてだ?記憶が途切れ途切れで全然意味が分からない。
でも何故?物凄くそれが欲しい……。
「根拠もないのにですか?それ私たち泥棒になっちゃいますよ。だって宝石って…」
高価なものだ。確かにそれはそう。
泥棒か、また盗むんだ。なんで、どうして……。
「そう、だよな。犯罪になる…、だけどどうしてもそれが要るんだよ!それがないと俺は完璧になれない!」
完璧に?何故?何故そう思える?
分からない、なにも思い浮かばない。誰かが俺を嘲笑ってるのに。
「落ち着いてくださいフロウ様!大丈夫ですよ、きっとなんとかしますから。」
その言葉にハッとした。もう忘れてた。俺は彼女を守るんだった。
でもなんとかするって…どうやって?
「ああ…、でも、それがどこにあるかも、なにも知らねえよ?」
あー…不思議だな、欲しい物の形もなにも知らないなんて。
何で欲しいのかが分からないなんて。

「簡単じゃないですか!全部手に入れちゃえばいいんです!」

「この世の中の紅い宝石、私たちが全部頂いちゃいましょう!」

セリエルは笑って俺の手をとった。
「カッコよくないですか?怪盗!」
正直、めちゃくちゃ驚いた。
怪盗なんて、恥ずかしい。子供が見る夢。

大体宝石が欲しいなんて…それこそただの我が儘だ…。

「い、いいって。やっぱり止めようぜ。宝石が欲しいなんてさ、そういうあの、おふざけだから!」
彼女から目を逸らして自分を馬鹿にするように笑って見せた。
でもまだ欲しくて、今よりもっとずっとガキの頃に戻ってしまったみたいで。
どうして、こんなに……。
「止めてください!」
彼女は怒鳴りつけた。顔を近づけて今までよりずっと怖い顔で。
でもすぐに柔らかく、今までのどんなときより優しい顔で笑った。

「お見通しなんですよ?フロウ様。その様子じゃ絶対に手に入れなきゃダメなんですよね。絶対に手に入れなきゃ、苦しいままなんですよね。」
なんで…、そんなに顔に出てたかな。あーあ、セリエルって凄いや。
「私はずっと着いて行きますからね。苦しんでるままの貴方を放って何処かに行ったりなんてしません。約束ですよ!」

彼女は綺麗に笑った。子供みたいに指切りして、約束した。

「ああ、約束。俺達ずっと一緒に怪盗だな!」
そして子供みたいな夢を、いつまでも……――


あれから数年。何回盗んだか忘れたけど。
理由が分からないって言うのはこんなにも辛いことだったのか。
盗むことに抵抗がある。だって理由がないのに罪を犯してるんだ、当たり前。
紅い宝石など、この世にはいくらだって溢れ返っている。
真に輝くものはまだ見つけられないけど。

俺は怪盗で、邪神の力を操れない半端な奴だ。
でも、それを認めてくれる死神の少女も、俺が追いかけ続ける「紅」を持つ彼も、今は居る。
…まだまだ守られているばかりで、守るなんて程遠いけど…
いつかは俺がみんな守ってやる。だからみんな待ってろよ。
だから今日も信じて、俺は穢れる。

「怪盗ヴィリア、只今参上した!」

全てはそう、世界を守る為。