ゴースト×ゴースト小説、君に幸福を。
いきなり狂ってしまったあの後から、フロウはただ色々な町を歩き、さまよった。
なに一つ話すことの無いまま、セリエルが後ろを追いかける。
フロウは何かを唱えるように怪しく口を動かしていた。
それに恐怖さえ覚えている自分がいることを、セリエルは不快に思った。
あんなに愛すと誓ったのに。
このままではいけない、そう悟った彼女は遂に言葉を放った。
「フロウさ………」
言いかけた、言葉が急に詰まる。
「フロウ。」
そこには、私にそっくりの少女がいたのだ。
流石にゾッとした私は、助けを求めるようにフロウに目をやった。
が、彼は何も気にすることなく、私と同じ容姿の少女を見ていた。
視線を少女に戻しても、少女は冷めた目で私を見るだけだった。
「何か用か。」
特に似ていることは気にせず、フロウが言う。
「あなたに力を届けにきたのよ。」
少し躊躇うように言った少女に、フロウは怪しく、笑う。
「待っていた……この時を……!」
狂気を隠すこともないまま、フロウはその言葉を吐いた。
少女は息を吐いて、落ち着いてから言葉を紡いだ。
「……本当に、いいの?」
と、意味深に。
「本当にいいか?いいに決まってるだろ。早くその力をよこせよ。」
狂気に満ちた目を少女に向けて、脅すように彼がいった。
「…それなら良いけど、あなたがゴーストになる必要がある。人である事を捨てる必要があるの。それでもいいの?」
出来れば止めてほしい、少女はそう祈っていた。
しかし当の本人は考えようともせず、笑って応える。
「死ねばいいってことだろ?ああ、構わねえよ。」
欲望に耐えられずに溢れた笑みが恐怖を誘っても、死神の少女は悲しむだけで、
「それとも、死神がいい?」
死神にも変えられる、と訴えた。
一瞬、意味が分からないという顔をしたフロウだったが、
「ならこいつを死神にしてやれよ。ゴースト嫌いみたいだからな。」
と、セリエルを見た。
すぐに、視線を少女に戻してしまったが。
セリエルはその時の優しげな目が、どうも記憶に残ってしまい、恥ずかしかった。
一瞬でも、嬉しかったのだ。
「…分かったわ。」
と、少女がいうとき、その目は妬みに満ちていた。
「じゃあ、この力、あげる。」
その手の内から、溢れ出た『力』。
それと同時に、零れた涙。
歩き出す少女が、フロウとすれ違ったとき。
一瞬手が重なったら
力が渡って、高鳴った鼓動。
「どうか…、どうか自分を見失わないで……!」
「あなたを、信じてる。」
弾けた力に、体が耐えられず倒れこんだフロウにも、ちゃんと聞こえた少女の言葉。
体にかかる痛みよりも、その言葉の重みを感じた。
目覚めない彼の思いが今、邪神から開放された。