ゴースト×ゴースト小説、欲望の果て

「フロウ様ってば!いきなり走ってどうしたんですか!」
ただ立ち尽くす俺を、セリエルが呼んでいた。
でもそれよりも大きな声で、力が俺を呼んでいた…。

−お前はこの世界の誰よりも強くなる。お前の真の力、そして……破壊の義務。

本当に俺は何かになってしまったのか?
願いは、こんなにあっさり叶うのか?

−フロウ、強くなりたい?

「ああ…なりたい。誰よりも…強くなって………守る。大切なモノを。」

アルネスの死が大きく影響した。
でも、だからこそ、カリンやエレス、イフレ、セリエルだって守りたい。
もう、失いたくないから。

−この世界を敵に回しても?

「敵に回す…?なんで?」

あまり深く考えず聞き返した。
すると声の主はくすくす笑ってから答える。

−力を手に入れる代償。でもそんなに怖いモノじゃあ無いと思うな。お前がこの力を操れるようになればいいんだから。

それを聞いて、俺は恐怖を捨てることが出来た。安心出来た。幸せを感じた。
でもそれはどこか自分自身じゃない気がしていた。

「そうか、力……力……!俺に力をくれ!」

でも狂い始めた自分自身に、何も感じる事は無かった。
力が欲しくて、他の事は考えられない。
……それが欲だと。

邪神が笑った。

−ふふっ、分かったよ。紅い髪の女、きっとお前に幸福を授けるだろう。

邪神は知っていた。
…彼が神の力を操れぬ事を。

何故なら全ては自作自演。邪神が作り上げた偽りの舞台。

「フロウ様!フロウ様!!」
そんな声に、ハッとした。
顔を覗き込む女の顔を、ただ見ていた。

「あ、ああ……セリエル……か……。」
ようやく声を発して目を逸らす。
肩で息をして記憶を整理する。

少し落ち着いてきたがやっぱり抑えられない。

……力、手に入るのか……!

不気味に、笑いが込み上げる。
自分の悪の精神が目覚めたように、心の奥底から何かが湧き上がるように感じられる。
自分がここまで生きてきて、初めて気付いた本当の欲望。
それが邪神の操りによるものだとは思うはずもなく、狂う感情。

あれが食べたい、あれが見たい……そんなちっぽけな願いなどもうどうでもいい。

力だ……力さえあれば俺は……!!

他人を守れる…。
何でも出来るんだ、何でも。
…そう信じろと、誰かが…。

「セリエル!俺は力を手に入れる!!誰にも負けない、強力な力だ!!あははははは!!!」
俺は狂った人間だ。
自分自身が遠い何処かへ行ってしまったような感覚に酔った。
腹が減った?金がほしい?…他人を守る?

そんなことどうでもいいさ。

「……フロウ…様……?」

俺は力がほしいんだ、全ての者を屈する力が。

世界を脅かす、最高の力が。

……それは、邪神に飲み込まれた感情。