ゴースト×ゴースト小説、怪盗の始まり?

今にも飛びついてしまいたいほどの輝かしい光景。
「飯……!!」

たまらない。
いつもの調子なら、全然腹なんて減っても平気なのに、今日は訳が違う。
さっさと盗んでしまおう。
もう早く食いてぇ!

市場の果物屋の前、盗むぞ。

紙袋を雑に開いて、林檎、蜜柑、葡萄……
こんなことしたことなかったし、するつもりもなかった。
だけどこの手は止まらなくて。
あーあ、俺悪いことしてる。

「盗人だーー!!!」

建物の間を曲がり、曲がり、曲がり、走り去る。
眼鏡をとって片付ける。
「セリエル、持て!」
果物の入った袋を投げる。
「ご馳走ですっ、きゃー!!」
嬉しさに顔が歪んでいる。
人々の目を盗みながら髪を結びなおす。

「あの女どこ行きやがったっ」
遠くの方でそんな声が聞こえる。
……上手くまいた様だ。
しかも女とまで勘違い。理想の形過ぎて笑えて来る。
「さっさとこの町を出るぞ。」
「はいっ!フロウさん最高ですっ」

親指を立ててウインクをする少女に、興奮のあまり俺も真似した。

あの町に居てはいつ捕まるかは時間の問題だ。
盗んだ後、俺達は足早に町を去った。

「よく逃げて来れましたねっ」
林檎に噛り付きながら紅い瞳を向けられた。
「馬鹿にするなよ。」
葡萄を口に放り込んでそっぽを向いた。
正直そんな事で褒められたって嬉しくないし微妙だよ。

「カッコイイなーって思ったんですよ、私の為に盗んでまで食料を……」
そう笑顔で語り出すセリエルを手で制す。
「勘違いするなよ、俺も腹が減ってたんだっ」
意識せずとも顔が赤くなる。
カッコイイなんて褒めるなよ……。
照れ臭いし、馬鹿馬鹿しい!!
「そうですかっ、スミマセンでしたー。」
彼女の茶色の靴は上機嫌に音を立てていた。
二人で歩いて安心を悟る。
どんな可笑しな言い合いをしたって、顔を合わせれば気持ちが伝わった。

「ねぇフロウさん?」
いつも通り袖を引かれて話しかけられた。
が、いつも引っ掛かるんだ。
「その“さん”っていうの止めようぜ?」
腕組みをしながらちゃんと言った。
しかしセリエルはきょとんとして考え出した。
「じゃあなんです?フロウくん?フロウちゃん?フロウ殿?」
次々出てくる呼び名は呼ばれるだけで恥ずかしくなるようなものばかりだった。
流石にセンスを疑う。
「もっとマシなの考えられねぇの?」
普通に呼び捨てでいいのに、その発想はないのか。

「じゃあフロウ様!!」
は、っと声が漏れた。
「ずっとあなたに憧れてた!だからフロウ様!!私の憧れ!」
憧れ。
なんでなんだろう?
ずっと弱虫で、泣き虫で、諦めてばっかで。
なのになんで……
「憧れなんだ…?」
よく分からないなぁ、女ってやっぱりそういうものなのかな?
自分の母親も、結婚相手には一目惚れだったとか。
憧れも、それに似てるのかな……。

ただフロウ様って……
「恥ずかしい……」
全身に力が入って顔が熱いけど、あいつの憧れが俺なら、あいつは……

セリエルは俺が守ってやらなきゃなー
そんなこと、小さく考えた。